野本先生追悼文



お亡くなりになるほんの数週間前に研究会でお会いして,あれは2次会でしたでしょうか,最後の宴席にもご一緒させて頂きました.宴の勢いを借りて,最近投稿したばかりの論文をテーブル越しにお渡ししご意見を求めるという,今から考えれば随分大胆なことをしてしまいました.「まあよろしいのではないですか」...何気なくおっしゃった一言が,私のような若手研究者にとってどれほどの励みとなったことか.その日の研究会がいたくお気に召していらっしゃったのでしょうか,終始上機嫌でおられた先生の朗らかなお顔が忘れられません.

若輩ながら,人生は限りあるものであることは実感しております.先生はその有限な人生において,なんと多くの人々に影響をお与えになったことでしょう.真の教育者・指導者は,周囲の人間にただ自分の生き様を見せておれば良い―だれかの言葉であったと思います.先生は,私が知る限りでも数少ない,計り知れない凄みの漂う背中をお持ちの方でした.私も学問・教育の世界に身をおく一人の人間として,先生の後姿より多くのことを学んだような気がします.

いまはただ,心よりご冥福をお祈り申し上げます.

2002年10月17日   田原裕介