リグの工夫

カッターリグと長いボウスプリット

リグはカッターリグにいたします。前帆が二つに分かれて、メンスルが比較的小さい。これは一人で乗るのには、都合がいい。先ほどの船が人間の面倒を見てくれるということにもつながります。

それから、ボウスプリットをかなり長くする。後で実物をご覧いただきますと分かりますが、今はこの絵よりまだ1メートル伸ばしております。これは二つ理由があります。バラストキールは大きな重量になると同時に、それが大きな横揚力のもとになりますから、重心の前後方向の位置と、水線下の横面積の中心つまり横方向の抵抗の中心、この二つは当然かなり密接に結びつきます。これらと帆面積の前後方向の分布ですね、この三つの調和をとろうとしますと、帆面積をかなり前へ出したくなります。軽い船の方は必ずしもそうはなりませんが、重排水量の船になるほど、その傾向が強くなります。そのためには、ボウスプリットを出すのが有効です。その結果として、一昔前までの帆船は、皆ボウスプリットを持っていました。アメリカ杯の船でさえも、Jクラスの船ができる前までは、全て船長の三分の一にも及ぶような、長いボウスプリットを出していた。ああいう形でバランスをとっていたわけですね。これが、第一の理由です。

もう一つの理由は、今の事柄とも関係するわけですが、重い船の軽い風のときの性能を改善しようとすると、とにかく大きな帆面積を持たせなくちゃいけない。帆の高さを増すか、帆の下縁の長さつまりフットの長さを延ばすしか、面積を伸ばす方法はないわけですが、マストを伸ばすことは帆面積中心の上昇を招くのでやりにくい。それで、なるべく前後方向に伸ばすことになる。その意味から、ボウスプリットがまた大きくなるわけであります。

思い切ったセンターコックピット

このように、カッターリグを採用して、おまけにボウスプリットを付けて、帆面積中心をかなり前へ出す。それからメンスルは比較的小さくする。こうなると、いっそコックピットを船の真ん中まで持っていってしまって、コックピットの中へマストを立てたらどうだろうかということになります。実はこの船の前の初代の<春一番>の場合に、同じ様な考えかたで、やはりセンターコックピットにはしてた。それでもカッターリグではなかったし、ボウスプリットも後から付けたようなものであって、まだ中途半端だった。そしてマストはコックピットより前へ出していたんですね。しかし、それの経験を思い出して、この設計をするときに考えてみると、あの方向をも一つ進めて、コックピットをもっと前へだして、その中にマストを立ててしまう。これなら帆の上げ下ろしからリーフまで、全ての操作をコックピットの中で、舵輪のすぐそばでやれるから、一人乗り向きです。そうなると、後ろのキャビンがメインのキャビンになるから、主な居住区は後ろへもってきてしまって、ここにセティバース、こちらにギャレー、こちらにチャートテーブル、こういう配置にしてしまう。チャートワークと炊事はクルージング中の二大作業ですが、これをしながらちょいと首を伸ばせば前が見えて、舵輪は手元にある。前の方は、トイレとかシャワーだとか、自分用の個室だとか、そういうものにしてしまう。で、前に大きな倉庫、こういう配置を考えたわけです。

マストの起倒装置
 

マストの起倒装置

そろそろ予定の時間になりましたが、後いくつか付け加えますと、これは船を浮かせたままで、自分一人でマストを立てたり倒したりすることができる仕掛けで、どのヨットにでもできるというわけにはゆきませんけれども、ずいぶん便利であります。マストはデッキを貫通していません。キールからFRPの頑丈な四角断面の柱が立ち上がってまして、その上に金具を造って、それにマストを据えます。だからマスト下端はピンジョイントですね。マストはどのみち座屈でやられるわけで、下端固定の長柱座屈か下端ピンの長柱座屈かということですから、ピンならピンなりにマストの断面係数を選んで、それなりの設計をすれば、そんなに無茶に重くはなりません。特に、木のマストの場合には、下をずっと絞ってゆくことができますので、重くならない。それはそれとしまして、ここでマストをステップする。そしてここに回転軸がありまして、その回転軸と両舷のトップシュラウドの下端とが一線にしてあるのです。ですから、マストを倒していっても、トップシュラウドは張ったままで倒れて行き、マストが左右に振れない。これが第一のポイントです。

そうしておいて、メインブームをスプレッダーといいますか、つっかい棒に使って、倒していくわけです。図にありますように、もともと付いてるパーマネントバックステイを外して、ブームの先に付け、それからトッピングリフトも同じくここで止めてしまう。そうすると、一方が切れてもまだいい。それから、このメインシートをテークルのロープに使う。念のためにもう一つ、図には描いてないですけれど、ここへスナッチブロックを入れて、ローブをダブルに取って、それで両方を適当にゆるめながら倒していくわけですね。倒すときにはゆるめる方向ですから、文句なしに一人でやっていけます。引き起こすときには、この船の場合で、マストがリギンを含めて、大体170キロぐらいですから、こういう格好でやろうとしますと、ここのテークルにかかるテンションが、摩擦を入れると500キロを越します。そうすると、ロープのテールを引いても、1/5の力になるんですが、テールのテンションが100キロになります。3年前までは、そこへ二重のテークルを引っかけまして、それを引いてました。それだったら引けますよね。二重テークルで4倍ですから。ある程度起きてきますと、だんだんモーメントが減ってきまして、楽に立ち上がります。三年前に七十才になった記念に、描いてはないんですが、この下にモーターをつけまして、この中に減速歯車を仕込みまして、向こう側に出ているアンカーチェーンを巻き上げるジプシーのワーピングエンドを、この軸でモーターで回すようにしました。これに巻いて引くと、これはもう非常に楽で、いまは毎日でもマストを立てたり倒したりして、油をやったりできるわけです。これなども、私の船の変わったところの一つだと思います。

観音に開いたウイッシュボーン・ブーム付きステースル
 

ウイッシュボーンブーム

もう一つの特徴は、これです。さっきのようにカッターリグですから、前のヤンキージブと後ろのフォアステースルがあります。このフォアステースルに、こんな風に曲がったブームがついています。これはもともとはウインドサーフィンのブームと同じように、向こう側にも対にして付けていたんですけども、考えてみると一本でも同じことだし、下ろしたときにじゃまになる、内舷側を取ってしまって、これだけにしたものです。ここから一種のトッピングリフトを上に引いて、だらんとならないようにしています。

これは、今は観音開きにしているところで、メンスルはステースルの反対側にあります。こうしますと、これがウイスカーポールになって、わざわざ前へ行ってウイスカーポールを引っかけなくても、勝手に開いてくれるわけですね。ボウスプリットの先にスナッチブロックがありまして、それから、ブロックを通して、こちらの方に持ってきているわけです。観音に開くときには、ブームエンドへこちら側のスナップシャックルを外して引っかけます。このラインがありますね。これをフォアガイにして張り合わせますと、ブームを適当な角度で、直角なり、少し前なり、少し手前なりで、固定することができる。それで、メインスルを反対側へ出して、これをブームバングで舷側へ止めてしまう。そうすると、非常に安定した追風の帆走になりまして、強風の追風には、非常にありがたいものです。瀬戸内海あたりの波がまあまあ4メーター以下ぐらいの状況だったら、20メーターをはるかに越すような風でも、深くリーフしたメンスルとこのフォアステースルで、追風で走ります。非常に安定してます。その操作全部、コックピットの中でやれるわけですから、前へ行く必要がないわけですね。舵輪もすぐ横にあります。

その他に、アビームあたりでもいることがあります。レーシングルールでは、ウイスカーを風下側へ使っちゃいけないというのがありますが、アビームあたりでウイスカーを風下側へ使うと、ジブのドラフトが深すぎず、ジブの力が強くなりますよね。それでそういう変則的なウイスカーの使い方はいけないということにしたんだと思います。このウイッシュボーンブームでも、それと同じ様な効果があって、アビームでも、割合きれいに張ってくれます。またクロースホールドに近づいても、普通のジブシートにかかるテンションというものは、大部分の力がジブをフラットにすることとリーチを張ることに使っているわけですが、この場合ブームが付いてるから、ジブをフラットにするのはブームがやってくれる。後は角度をトリムするだけですから、普通の風だったら、小さなシートウインチに一つ巻いた後、腕でグーッと引くだけで、おおかたトリムできるんです。本当の詰めのときには、その状態で、もひとつリーチを張りたいですから、ハンドルを二三回まわしますけど、それだけです。シートの操作が速くて楽なんですね。ですから狭いところでいったりきたりするときには、ヤンキーを巻いてしまって、これだけを使うということもやります。そんなことで、この片張りのウイッシュボーンブームは、大変便利に使っています。

その他いろいろございますけれども時間が参りましたので、これから船の方を見ていただきまして、いろいろご意見ご質問などもあるかと思いますので、説明させていただいて、できればちょっとぐらい、その辺りをセーリングしてみて頂ければと思っております。

どうもありがとうございました。


後記:

この後桟橋へ出て、<春一番U>の内外を見学した後、シングルハンドでの帆走達着を実演していただきました。3メートルくらいの微風の中、お話のようにヤンキージブを巻き取って、ウイッシュボーンブーム付きのステースルの威力で自由自在にタッキングしたり、はたまたセールを下ろして、ご自慢の櫓を漕いで風上にしっかりと上ったりと、狭い港の中を自由自在に動く<春一番U>の雄姿に、一同拍手喝采でした。


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