<春一番U>のコンセプト

私のヨットの乗り方の端々をお話しすると、このようなことになるかと思います。次には、こういう私のヨットに対する考え方、感じ方、それを船に実現してみると、どういうことになるだろうかということをお話ししたいと思います。それがもう一つの資料の「<春一番U>のコンセプト」という方に関する話です。

和船の美しさを生かしたかった

この船を造って二十年あまりたちますが、この船を造るときに私が最初に考えましたのは、自分が一人で乗って、時間さえ許せば世界中どこへでも行けるヨットにしたいというのがまず基本であります。そのころは私仕事をしておりましたので、当分は日本沿岸のクルージングが主だろうけれど、一生乗るつもりの船なら、それだけの耐航性を持つ船にしようと考えました。そうすると、十メーター程度のどっしりした、先ほどいった重排水量の船になる。レース用のレーティングのことは頭から考えない、これは最初からはっきりしていました。

帆船の寸法効果

私のヨットデザインの原点は、日本伝統の帆走漁船でした。青春時代の私はそれに熱中して、日本伝統の帆走漁船を何とかしてヨットにしてみたいと一生懸命にやりました。熱中と挫折の中で、六十尺の打瀬(うたせ)、打瀬というのは一種の帆船底引き漁船ですが、これが見せる切れ味を、三十尺のクルージングヨットに移すことは、帆船の寸法効果が許さないということを知ったわけであります。

<春一番U>の帆装図
<春一番U>の船内配置とボディプラン
 
帆船の寸法効果というのはなかなかおもしろいことで、またあまり一般には使われていない言葉かと思います。これは簡単にいえば、物理学の相似則を帆船に持ってきたらどういうことになるかということです。一番基本は、フルードの相似則の問題があります。ですから粘性抵抗の話を別にしますと、(こちらのほうも、ほぼスピードの自乗に比例する抵抗ですから、ヨットで問題になるフルード数の範囲ですと、剰余抵抗あるいは造波抵抗と一緒にひっくくっても、あまり大きな違いはないわけですが)、まず重心の高さも含めて完全に相似な船であれば、風速が縮率比の平方根で小さくなった状態では、小さくなったヨットは、同じく縮率比の平方根のスピードで走る。横流れ角や傾斜角も同じだと、こういうことになるわけですね。ということは、ヨットは小さくなるほど、たとえば六十尺の打瀬と三十尺のクルージングヨットとを比べれば、半分ですから、平方根1/2で、7割くらいのスピードで走れると、こういうことになるわけですね。そのときの風速の方も7割になる。じゃ、同じ風速になったらどうなるかというと、傾きすぎて走れないわけですね。そこへ持ってきて、重心の高さの方は、これは単純にスケールレシオではありません。いろいろな要素が入ってきます。それらを含めたものが帆船の寸法効果であります。

結論的に一つの単純なところを申しますと、船を半分とか三分の一とかいう長さにすると、よほど大きなバラストを下へぶら下げない限り、同じ風速の中では走れないということになります。極端な例が、ラジコンヨットでして、あれはみんな全く実寸では考えられないような深いスオードキールを垂らして、その下にバルブ型のおもりを付けているのはご存じだと思います、あのようにしないと、現実の風の中では全く走れないんですね。あれなどは、帆船の寸法効果の典型的で誇張された表れ方です。

そのようなことがあるので、たとえば六十尺の帆走漁船のまねをして、クルージングヨットを造ろうとすると、それはうまくゆかない、とこういうことです。私は二十代から三十代のはじめぐらいまで、これで悪戦苦闘したわけであります。最終的に挫折を経験し、そして和船の船型に別れを告げて、重排水量の方に移っていったわけです。ところが一方、私の感性は、和船の直線的なラインや、シアラインとチャインのラインとでうまく調和してくる曲線美を忘れることができない。それを何かの形で、自分の船には取り入れてみたいというのがもう一つのポイントだった。これは性能とは関係がない、自分の感性の問題です。それをすることで性能を落としてまで和船のまねをしようとは思わない。しかし和船の持ってるあの美しさは何かの形で取り入れてみたいというのが、一つの考えであります。


最初へ→

次へ→


 SYRAホームページへ