一人乗りにふさわしいヨットの条件

一人乗りのヨットにふさわしいのはどんな船だろうかと、そこにまたいろいろと書いてございます。これは「舵」に書いた文章なものですから、素人の方も相手にして、排水量長さ比の説明といった余計なことも書いておりますが、簡単に申しますと、私は一人乗り、それもある程度年輩のいった人が一人で乗る船は、いくらか重排水量の船がいいという意見を持っております。これには反対の意見もありますけれど、私はそう思います。

人間の面倒を見てくれる船

少し言い方を変えますと、人間が船の面倒を見てやらねばならない船と、船が人間の面倒を見てくれる船とがあると思うんです。性能の高い、馬でいえば癇の強い競走馬のような船は、優れたスキッパーと腕っ節の強いクルーをそろえて動かすと、その船が持ってる性能を最高度に発揮することができる。しかし、それは人間が船の面倒を見てやっているのであって、そういう船を少ない人数で乗ろうとしたり、乗ってる人間が、無精はしないにしても体力がいくらか弱ってきたといった状況になったときに、とたんにどうにも手に負えなくなってくるんですね。

一方、船が人間の面倒を見てくれるような船は、最高の操作までしなくても、極端にいうと人間が参ってしまって中でごろんと寝ていても、船がなんとかひっくり返らずに沈まずに、人間を休ませてくれる。そのうちに人間は力を盛り返してきて、なんとかまた動ける。そのような船じゃないと、広い海に出てゆくのは怖いという気がするんです。人間が最高のことまでしなくても、ああまたうちの親父しくじったな、仕方ないなあといいながら船が面倒見てくれるような、そういう船じゃないと、本当に自分を預けて海の中へ出てゆく気になれないというのが、私の印象なんですね。そうすると、重い船になってきます。まあ重い船と軽い船のいいとこ悪いとこは、皆さんよくご存じですから、繰り返しませんけれど、そのあたりのことがらが書いてあります。

一人乗りのための性能

乗り心地、乗り前の違いとか、微風の時のスピードとか、最後の生き残り能力つまり転覆耐性ですね、それに加えて積載能力の問題もあるでしょう。まあ、気持ちの豊かなクルージングをやろうとすると、ものが積めるということは非常に大切です。どこかに書いたかと思いますが、ルーバードアの代わりにカーテンにして、0.05ノット速くするのも結構だけど、0.05ノットぐらい遅くても、毎日重厚なルーバードアを眺めて楽しむ方がいいという考え方もあるんじゃないか。ヨットは乗りものだから、遅くていい理由はないけれども、逆に速ければその他のものは考えなくてもいい、その他は犠牲にするというのは、私は単純にすぎると思います。性能にしても、乗り心地も性能の中だし、スピードも性能の中だし、非常にひどい状態の中で最終的に転覆から生き残る能力も、また性能の中です。さらには、今いったルーバードアなども、性能のうちだろうと、こう考えるわけです。そのように考えてゆきますと、いくらか重い目の船、つまり昔流のやり方で、排水量とフィートで表した長さの100分の1の3乗という、例の排水量長さ比、あれでいって、私は300はほしいという感じです。もちろんこれは全部積み込んで、乗員の重量も入れた上での話です。300から350ぐらいがいいと、私は思います。

もっと重い船がほしい

じゃ、その例としてどんな船があるだろうか。これの終わりのほうに絵が二つばかりついているかと思います。そのうちでも、ファルマス・カッター29、これは排水量長さ比がちょうど350くらいのものですが、この船などは、今いったような立場から優れた船だろうと思います。

帆装図
概略構造図
ファルマスカッター29
 
日本でもこんなヨットがほしいということを5ページあたりに書いてありますが、先程申しましたように、結構年輩の、ひっそりと船の中で生活しながら乗っているような人たちが、あちらこちらに見受けられる。そんな人たちが乗ってる船も、日本の現在の量産艇市場でしか入手できないから、そういう船に乗ってるわけなんですが、もっとどっしりした重い船があれば、本当にあの人たちらしい乗り方ができるんだろうに、そんな船がないのは残念です。さらには、もっと若い年齢で、日本のこのような社会からはみ出して、何年も掛けて地球を回ってみたりする人が今もときどきいるわけですが、そういう生き方の是非は別にしても、あの人たちもまた、そういう軽い船で出かけていってる。もっとどっしりした重い船があれば、あの人たちがやりたいようなことが、もっとできるのにという想いが、私にはあるわけです。

じゃ、なぜ今の量産艇市場の船がいけないのかといえば、一言でいえば、人間の面倒を見てくれない船だから、こちらが面倒を見てやらないと走らない船だからいけないというのが、私の考えであります。重い軽いでいうならば、軽すぎるということであります。

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