私の帆走哲学と<春一番U> Part 1

私の帆走哲学と<春一番U>

野本謙作氏                
(大阪大学名誉教授)           
1998年7月31日              
第14回セーリングヨット研究会にて講演

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<春一番U>の背景

  シルバーエージ一人乗りのすすめ
  一人乗りにふさわしいヨットの条件
  ヨットは帆で走ろうよ
  沿岸ナビゲーションの三つ道具
  海で行き逢う人々

<春一番U>のコンセプト

  和船の美しさを生かしたかった
  リグの工夫
 
資料T: 『スピン・ナ・ヤーン抄 ――― <春一番II>の背景
資料T: 『<春一番II> の コンセプト』



<春一番U>の背景

ヨットについての私のフィロソフィーとかいわれても、そういう話をするのは面はゆいし年寄りの自慢話みたいなことをしてみても仕方ないと思って、何をどう話そうかと思って考えたのですが、雑誌の「舵」なんかに、この何十年かにわたってぼつぼつ書きためてきたものがありましたので、それを引っぱり出してまとめたものを持って参りました(資料T、U参照)。これに沿いまして、いま思っていることをお話しして行きたいと思っております。大部分は、読んでいただければ、なるほどそんなものかと分かって頂けるかと思いますが、まず<春一番U>の背景の方から、説明させていただきます。


シルバーエイジ一人乗りのすすめ

最初に「シルバーエイジ一人乗りのすすめ」という節があります。実は、三十年くらい前に「中年ヨット乗りのすすめ」というのを書いたことがあります。自分がそろそろ歳とってくると「シルバーエイジ一人乗り」になって、次は「よぼよぼじいさん一人乗りのすすめ」てなことを書くことになるのかと思っておりますが。

クルーザーが減ってきた

日本のヨットの人口はまことに寂しいといいますか、天下国家を論じるようなマクロな視点から見ますと、まことに肌寒い気がいたします。一方、それこそシルバーエイジの、結構五十、六十、中には七十越したような人たちが、一人とか夫婦二人とかでひっそりと日本のあちらこちらを乗っています。そういう人たちを見ていると、あれがヨットの最後の姿だとは申しませんが、落ち着いたいい境地だなという感じはいたします。ヨーロッパやアメリカなどにもそういう人たちが大勢いるのは、皆さんよくご存じだと思いますし、また後から次々参入している人が、昔ほどではないにしても増えているようです。

日本では、大ざっぱに申しまして、ヨットのオーナーの平均年齢は、毎年大体一つずつ上がっているというのが実状らしいですね。去年一年間で出荷されたヨットの数は、ヤマハの永海さんによれば、クルーザーで国内艇が八十隻で、輸入艇が同じくらい、ディンギーを入れても昨年の実績が八百隻くらいだそうですね。だからクルーザーですと百隻ないんですね。小型船舶検査機構の統計を見ても、現有勢力がだんだん減ってます。この統計は遊漁船も入ってますが、遊漁船の大部分が個人の釣り船です。この釣り船を含むプレジャーボート全体で四十数万隻ある中で、いわゆるクルーザーといわれるヨットは、去年が一万四千いくらだったのが、最近きた今年の三月の統計では、一万三千何百かになってます。明らかに減ってきてるんですね。だんだんと漸減の傾向です。プレジャーボート全体は増えてるんですよ。日本の場合では徹底的に釣り船が多いですね。釣り船以外で増えてるのは、やかましい水上スクーター、あれは増えてますね。でも、やはり日本のプレジャーボートの圧倒的多数は魚釣りの船です。日本のプレジャーボートには、ヨーロッパやアメリカに比べると、おそらく三つ大きな特徴があって、一つはよくいわれてるように人口当たりの数が非常に少ない。その次に、機主帆従で、帆走が非常に少ない、それから三つ目に、魚釣りが圧倒的に多い。この三つが日本のプレジャーボートの特徴だろうと思います。

無精をしないこと

話がちょっと横へ飛びましたが、シルバーエイジ一人乗りというのは、そういう一人か二人で乗っている結構な年齢の人たちを見ていると、一つの特殊な形ではあるけれども、ヨットの乗り方としていい境地だなあということを感じます。年とってくると、大勢でがやがや乗るのはあまり向かないような気がする。それで、小人数で乗る。行き着くと一人で、あるいは夫婦で乗る。それを可能にする第一歩は、これは無精をしないことだというのが、私の考えであります。この中で海軍兵学校の飯をちょっとでも食べたのは高石さんぐらいかと思いますが、高石さんよく覚えてらっしゃると思うけど、「無精にわたるなかりしか」というのが五省の中にありましたよね。船に乗る人間は無精をしては絶対にだめだというのが、私の考えです。

そこに引用してありますが、「老年とは単に悪い習慣にすぎない」という格言があります。いくらか負け惜しみ的な感じが見て取れますけれども、たしかにそういう面もあります。無精という悪い習慣がだんだん身に付いてきて、体が動かなくなる。だから、年をとるというのは、悪い習慣というだけで、何も本当に体が弱ってるんじゃないという負け惜しみであります。そういう悪い習慣を身につけないためにも、骨身惜しまずヨットに乗るのがいいのではないでしょうか。

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