<春一番II> の コンセプト

―― 春一番のサーガ、その他から ――

1998-07-31 野本謙作


この年には私も五十の坂を越えた。 初代の進水から12年、まだまだ健在な春一番だが、その経験を生かして、今度は一生乗るつもりの船を作ることを考え始めていた。

まずその船は自分がひとりで乗って、時間さえ許せば世界中どこへでも行けるヨットにしたい。 当分は日本沿岸のクルージングが主だろうけれども、一生乗るつもりの船なら、それだけの耐航性を持つ船にしよう。 そうするとおそらく全長9〜10m、比較的どっしりしたヨットになるはずだ。 レース用の規格(レーティング)のことは考えない。

私のヨットデザインの原点は日本伝統の帆走漁船だった。 しかし青春時代の熱中と挫折の中で、60尺の打たせが見せる切れ味を30尺のクルージング・ヨットに移すことは「帆船の寸法効果」が許さないことを知り、設計の方向は和船の船型に別れを告げて重排水量に傾斜していった。 それでも私の感性は和船の直截なラインや、舷弧とあおり(チャイン)の織り成す曲線美を忘れられない。 今度の船でもそれはできるだけ追い求めてみたい。

帆装は前帆が2枚に分かれているカッター・リグにしよう。 風力に応じて前帆の組み合わせを変えることができて一人乗りには向いている。 前帆のうち、前のジブはファーリング・ジブ、後ろのステースルはウィッシュボン・ブーム付きにする。 これは初代<春一番>でクルージング・ジブに使ってみて大そう具合がよく、ずっと使ってきたものだ。 ストーム・ジブを同じフォアステイに張ることもできる。

かなり長いボウスプリットを付けることになるだろう。 ヘルム・バランスとバラストの重量配置を考えると、ボウスプリットで帆面積中心を前に出すのが有利だ。 さらに軽風用帆面積を稼ぐにも適している。

カッター・リグのマストはわりと船尾寄りに来るから、初代でうまく行ったダブルキャビン方式をさらに進めてコクピットをもっと前に出し、コクピットの中にマストを立ててはどうだろう。 これは全く珍しい配置だが、一人乗りにはとても向いているはずだ。 帆の上げ下ろしから縮帆から、すべての帆の操作をコクピットから出ないで出来るからだ。 しかも舵輪はすぐそこにあるから、船を操縦しながら帆の上げ下ろしもできるわけだ。

そうなればむしろアフト・キャビンの方が大きくなるから、そちらを主な居住場所にし、その船室に下りた辺りの一番広い部分の両舷にそれぞれ炊事場と海図机を配置する。その船尾側両舷にセティバース、中央に大きいテーブルを取り付ける。 この船室は広さも高さも十分で6人くらいのパーティはやれるだろう。 イギリスには巡航ヨットの居住設備の標準を表わすのに「ドリンク・シックス、イート・フォア、スリープ・ツー(6人で飲み、4人が食事でき、2人が泊れる)」といういい表現があるが、<春一番II>はちょうどその程度を狙うことになるだろう。

この大きさになれば少し背をかがめるくらいで立ったまま前の船室へ歩く通路を甲板下に取ることができる。 前の船室は左舷にトイレと洗面所、簡単なシャワー、右舷には自分用の独立した寝室をおく。 船首倉庫は十分大きくして帆やロープ類のほかに分解組み立て式のテンダーや折りたたみ自転車なども収納できるようにする。

初代の全長7.8mではこんなことはどれも無理だったが、わずか1m半も大きくすればみな可能になる。 船ではちょっとサイズを大きくすると、船内の部屋割りや居住性、積載能力などに格段の余裕が出るものだ。

この12年間、初代<春一番>で錨についてはずいぶん経験を積んできた。 エンジンなしでヨットの航海は可能だが、信頼できる錨なしでは絶対に無理だと思う。 今度の船では35ポンドCQRアンカーに10ミリの鎖を80mは付けよう。 全部鎖の錨でないとほんとうには信頼できない。 これを巻き上げる装置は手動だがモーターを補助に使えるものにし、マストの根もとに装備して、鎖はそのまま真下に下ろして船底のチェンロッカーに入れる。 そうすれば鎖の重量はバラストの一部で、帆走性能上、気にならない。

船を浮かせたまま、自力でマストを起倒できることの効果は大きい。 初代の方法を踏襲するが、今度は船尾側ではなくて船首に倒すようにする。 いろんな点でその方がよいが、特にマストを倒したまま、機走で内水を行くときの操船のやりやすさは決定的だ。

ウィンドベーン自動操舵は一人乗りには必需品だが、簡単確実で自作もできるトリム・タブ型にする。 そのためにはトランサム・ラダーにすることになるが、それで別に不都合はないように思う。

帆走中のプロペラの抵抗は大きい。 固定ペラだと船体抵抗の30%とか、とんでもない値になる。 フォールディング・ペラは何かと問題があり、信用しかねる。 漁船がよくやっていたように、スターンチューブを出たところにユニバーサル・ジョイントを付けて船内に引き込んでしまえばよいだろう。 これも初代からの知恵だ。

船底に開ける孔は極力少なくしたい。 コクピット・ドレンを一本にまとめてひとつ、エンジン冷却水取入れ口、トイレ排水と合わせて3個になる。 すべて90゜回転のシーコック。 トイレ洗い水はコクピット・ドレンから取る。 ギャレーのシンクの排水はビルジの汚水溜めに落とし、ビルジポンプでコクピットへ流す。 エコーサウンダーは船内取り付けで開口なし、ログも曳航式で開口なし。 結局スターンチューブを入れて船底開口は4個にとどめる。

最初へ→

 SYRAホームページへ