快速小型ヨット「ツインダックス」の構想

堀内浩太郎氏            
(元ヤマハ発動機)         
1998年3月7日            
第13回セーリングヨット研究会にて講演


私にとって、水中翼ヨット[アボセット」は大き過ぎた、また40ノットは速すぎた。そこでもう少し気楽に乗れるよう、新しいレイアウトのヨットの夢を描いてみた。カ−トップできるサイズで、常用20±5ノット、最高30ノットが狙いどころである。

目次

1 アボセット
2 日本でのアボセット
3 私の欲しいセ−ルボ−ト
4 着想
5 各部の構造
6 シミュレ−ション
7 実現計画
  参考

図はクリックすると大きくなります


1 アボセット

1985年、ヤマハ発動機(株)は本社にR&Dセンタ−を置き、米国で販売する新商品の探査と研究開発のために、R&DカルフォルニアとR&Dミネソタを開設した。

私はR&Dセンタ−を担当することになり、1ヶ月おきにロスとミネアポリスのR&Dを訪れて、研究者達の相談に乗っていた。R&Dは自由な雰囲気で、米国での遊びや交友の中から、それぞれにテ−マの種を見付けては、その実現に打ち込んでいた。

図 1 アボセット
 

1989年になって、グレッグ・ケッタ−マンと言う若い米人が熱心に水中翼ヨットの研究をしていて、すでに24ノットもの高速を得ていたのを、R&Dカリフォルニアの山田利治君が偶然に見つけた。そして山田君は、ケッタ−マンを説得して同僚のニック・ラ−ソンとともに商品化のための共同研究を開始した。ニックはこのプロジェクトをアボセットと名付けて情熱を傾けていた。アボセットを辞書で引くと、"セイタカソリハシシギ"、浜千鳥の一種とある。細い脚で水に立ち上がった姿からアボセットを連想したのだろう。

ケッタ−マンと開発を進めていたヨットは、3胴の水中翼船で、2枚のウインドサ−フィンのようなセ−ルを並列に取り付けていることを特徴としていた。(図−1) 中央胴体の前からは、左右に太いアルミ管のビ−ムが張り出していて、その先にはサ−フボ−ドが左右一枚づつ付いている。そのサ−フボ−ドの前端からはア−ムが伸びてその先に滑走板が付いており、これが水面の位置を測るセンサ−の働きをしている。またサ−フボ−ドの側面には湾曲した水中翼が取り付けてある。

図 2 翼走への移行
 

船が止まっている時には、滑走板、サ−フボ−ド共にベタッと水面に浮いていて、静的に安定を保っている。(図−2a) この状態では水中翼が10数度の迎角(前上がり角)を持っているので、艇速がつけば揚力が大きくなってサ−フボ−ドが水面から離れる。しかし滑走板は水面をなぞっているから、サ−フボ−ドは持ち上がるにつれ前下がりになって、取り付けられた水中翼の迎角が減り、揚力が減る。こうしてサ−フボ−ドは水中翼の負担重量が揚力と丁度同じになる浮上の高さを保って翼走を続けることができる。(図−2b) スキッパ−は中央胴体の後のコックピットに座り、その後の舵の下端にも水中翼が付いている。サ−フボ−ドが翼走すると、中央胴体の前が持ち上がって後翼の迎角が大きくなるから揚力が増して後も持ち上がる。この場合も船尾が持ち上がると後翼の迎角が減って船尾は負担重量と揚力の釣り合う高さに安定して走ることになる。(図−2c) ヨットは風によって横に傾く力(ヒ−ルモ−メント)を支えねばならない。アボセットはヒ−ルモ−メントによって風下のサーフボードが押し下げられると、その下に付いた水中翼の迎角が大きくなって揚力が増し、一方風上は逆に減る。それによって自動的にモ−メントが支えられるのである。突風や強風の場合、風上の水中翼の揚力がマイナスになることさえ起こり得る。

ケッタ−マンはセ−リングスピ−ドの世界記録を夢見ていた。一方私共は高速セ−ルボ−トの商品化を意図していたから、シンプル、ロ−コストでほどほどの高速を達成したかった。山田君とニックは商品化に耐えるアボセットを実現しようとしてケッタ−マンの説得に努力したが、彼と私たちの目指す所はそれぞれでなかなか一致しない。

ケッタ−マンは前記のレイアウトを動かす気はなく、そうかといってサイズだけ小さくしても複雑さの解決にはならない。彼も離水の難しいアボセットを小さくすることも、ましてやレイアウトを変えることなど自信が無かったのだろう。

開発の過程で私は3〜4回試乗する機会を得た。しかし私が重すぎるのか、アボセットはよほどの強風が吹かないと翼走してくれない。一方、離水するとその後の加速は物凄く、暴力的に疾走する。そしてタック(風上回りで風を受ける舷を変えること)こそ難しかったが、翼走したままで難無くジャイブ(風下回りで風を受ける舷を変えること)ができるのだった。私の乗っている時のスピ−ドはせいぜい25ノット止まりだったと思うが、この試乗で私は幾つかの強い印象を受けた。

a. 30ノットを越えて、この船が何かトラブルを起こしたり、転んだりしたら怖い、船がクシャクシャになるのではないか、身体はどうなるのだろう。ともかく、これ以上速くなくて良かった。

b. もう少し弱い風で離水したい。何しろ離水前後の様相が違い過ぎる、それは離水時の抵抗が大きすぎる感じでもあった。離水できる風速を5〜6m/s程度まで減ずることができたらどんなに楽しく乗れるだろう。また風が落ちて、ちょっと船体が水につくと途端に離水前の状態に戻ってしまうのもつまらない。

c. 大きくて重く、セットアップが大変で、これに乗るのは楽しみの範囲を越えている。世界記録のためなら致し方ないが、もっと小さく、軽くシンプルなものにしないと楽しめないし、当然商品化は困難だ。

結局アボセットの商品化は諦めて、その後数年はケッタ−マンの自由な研究をサポ−トした。その間に彼は同型の記録艇ロングショットで43.55ノットの世界記録を達成した。

その時の写真のすざましいスプラッシュを見て、私はますます40ノットに対する恐怖感を強めた。

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図 3 水流に吸いつけ
られるスプーン
 

2 日本でのアボセット

ケッタ−マンとの契約を終えて、日本へ引き取った一隻のアボセットを、ヤマハのセ−ルボ−ト開発チ−ムの諸君が何度か試乗していた。やはり強風下でないとなかなか翼走に入れないらしい、様子を聞いて私は船尾にステップを付けることを提案した。
図 4a ステップ
図 4b アボセットのステップ
 
アボセットの中央胴体の底面は、後の方で丸く反り上がっているので、その面に沿って水が吸い上げられ、その反力で船体が水の流れに吸い付けられて、多分それが離水抵抗を大きくしている。丁度水道の蛇口から出る水に、スプーンの丸い面が吸い付けられるのと同じだ。(図−3) 従ってここにステップを取り付けて、水の流れをお尻から切り離せば、問題は解決すると睨んだからであった。(図−4)

元アメリカズカップ乗りでセ−ルボ−トの設計担当の磯部君は、アボセットを曵航して離水時の抵抗を実際に測ってくれた。その結果、原型では135kgもあった抵抗がステップを付けることで30kgまで減少した。当然離水が容易になって、推定ではあるが、離水できる風速が8m/sから5m/sまで激減した。

図 5 アボセットの優勝
12ノットの風で21.1ノットを出して優勝した
 
この船は、その後1992年11月浜名湖松見ヶ浦で行われた第1回セ−リングスピ−ドトライアルにおいて、12ノット(6m/s)の風の中、21.1ノットを出して優勝した。(図−5) しかしその後は一度も水に浮かべられていない。恐らくセッティングと進水の大変さが二の足を踏ませるのだろう、私自身「浮かべて見たら」と言い出すのも気が引けた。

その頃から私は毎年行われる人力ボ−トレ−スをサポ−トしてきたのだが、そこでは何時も水中翼の人力ボ−トがいとも簡単に翼走する。特にこの3年ほどはきついカ−ブの7つもある1000mコ−スを翼走で競争するようになった。(図−6) しかも排水量型のボ−トに較べて2〜3倍も速い。(参考2、3)それを見ていると、人力に較べて遥かに強力な風の推進力を利用しているヨットに、水中翼を使わないことがむしろ不自然に思われてきた。

図 6a スーパーフェニックス一般配置図
図 6b スーパーフェニックスの走航
1997年8月23日、100mを9.99秒で走り
(19.45ノット)、18.50ノットの世界記録を破った
 
難しい理由はいろいろと挙げられよう、曰く風向きが定まらない、息をつく、風の止まることさえある、突風が吹く、セ−ルが高いので上の方に風の力が働き、ヒ−ルモ−メント(横傾斜モ−メント)が大きいし、ピッチポ−ル(前方への転覆)もしやすい、サイドフォ−ス(横に押す力)にも耐えなければならない、等々。やはり人力ボ−トに較べて格段に難しい条件はある。

しかし最近のセ−リングスピ−ドの世界記録は水中翼によって達成されており、この世界では水中翼が主役である。従って一般向けのヨットにも各課題をうまくいなす設計が見つかれば一気に面白いものができるに違いない、と思うようになってきた。


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3 私の欲しいセ−ルボ−ト

私は世界記録に挑戦する気はない。そんな危険を冒すよりも、江ノ島を出てその辺にいるディンギ−達の間を20ノット±5ノットぐらいでスイスイと縫って行けるヨットに乗りたい。タックはできれば良いが、もし駄目でもジャイブができれば充分、そして肝心なことは、1人かせいぜい2人で船を出し入れできるものでありたい。

8〜10m/sも吹けば30ノットは出るだろうが、それは若い人にやってもらう。カ−トップでマリ−ナへ行き、マリ−ナで組み立てたボ−トをカ−トで海に浮かべるまで1人でできれば良いのだが・・・。

そんな期待と、水中翼の人力ボ−トを散々見てきた印象とが重なって、小さい水中翼ヨットのできない筈がないと言う気持が高まってくる。だがヨット特有の数々の条件を一気にクリアする設計法が見当たらないまま、日は過ぎていった。97年春のオ−シャンライフ誌の取材で三野正洋さんと対談した時も、今後の夢としては30ノットのセ−ルボ−トと言いながら、内容を聞かれて、(必ずできると思うのだが)今の所アイディアだけで、私もどう設計して良いか判らないんです、と言って笑いを招いた。(´97.6月号所載)

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4 着想

図 7 アクアキャット
 
図 8 ヤマハSC-14
図 9 「ツインダックス」の構想
 
その記事が反って自分を刺激したのかも知れない。97年7月初旬の朝の寝床の中で考えているときに突然面白い解決案に行き着いた。

下地はあった。私は1960年代米国の小さいシンプルなカタマラン、アクアキャットのレイアウト、特にセ−ルリグ(帆装)に興味を持った。(図−7) この船はかなり普及してセ−ルナンバ−が確か5桁に近い4桁まで行ったと思う。またその後ヤマハはSC14というカタマランヨットを開発した。(図−8) どちらの船も、乗っていて悩ませられたのは左右の船体を繋ぐ二本のビ−ムが捩じれやすいことであった。カタマランのセ−ルに推力が掛かると、風下側の細いバウはすぐに突っ込みぎみになる。それで風上側のデッキの一番後に体重を掛けてバウを浮かせようとするのだが、捩じれ剛性が弱いので風上側の船体のバウばり上がって、突っ込んでいる肝心の風下側のバウはなかなか上がってこない。そのため強いブロ−を食うとピッチポ−ルしそうになるのである。

今回の構想でも船体はカタマランにしようと考えていたから、朝の床の中で、また捩じれ剛性に悩まされるかと思いながら力の掛り方を考えていた。そのうちに、いっそ捩じれを自由にしたらどうなる、と試しに構成を工夫したら面白い結論に達したのである。

それは、左右の船体にそれぞれ人力ボ−トの水中翼のレイアウトを取り入れて、個々に縦安定と浮き上がり高さを保つ。そして、その動きを邪魔しないように二つの船体の間を捩じれの自由な連結パイプで繋ぐことで横安定も確保するという案であった。(図−9) これは見方によっては、アボセットの前だけを走らせるレイアウトとも言える。

人力ボート(図−6)は、水面センサー付きの前翼で船首の浮き上がり高さを一定に保っている。その代りに大きな滑走板を使ったのがアボセットだと考えると、滑走板とサ−フボ−ドとそれに付いた水中翼の組み合わせが人力ボートのレイアウトに相当する。従ってアボセットの中央胴体は姿勢を保つのにどうしても必要なものでは無い、むしろ無駄なリヤカーを引っ張っているようにさえ思えてくるのだった。

さらにもう一つ、アボセットはヒ−ルモ−メントを支えるのに、左右の水中翼の揚力差を利用するが、こちらはむしろスキッパ−の体重のバランスで左右の水中翼の負担荷重を同じにして、翼面を均等に利用することができる。それは、翼の効率を上げる一方、離水に必要な翼面積を小さくして高速時の抵抗を減ずる、もしくは、小さな面積で楽に離水できる効果がある。そしてブロ−などで横安定が崩れかけた時には、艇が捩じれて左右の翼の迎角が変わり、左右の揚力差で自動的にヒ−ルモ−メントを支えてくれるのが心強い。心配なのは、ブロ−でバウを突っ込む時、ギリギリまで船尾に乗っても、前翼の揚力が船首の沈みを支え切れないことで、そうなると着水もしくはピッチポ−ルを起こす可能性がある、それを避ける為に前翼を大きめにしておく必要があろう。

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5 各部の構造

5−1 船体

船体の長さはカ−トップの便を考えて4.5mとし、最大の断面は深さ28cm、幅24cmくらいの寸法を予定している。船型的には普通のカタマランヨットと似たものになる。カタマランヨットの船体は片足走航を考慮して充分な予備浮力を持たせているが、この船の場合も、水中翼の効かない低速時に突如ブロ−を食らうことをも想定して、横安定のために同程度の予備浮力を用意せねばなるまい。船首にはオ−ストラリヤのサ−フスキ−(参考1)みたいな反り上がった平板部を付けて「ピッチポ−ル止め」とした。(図−9) この形がつがいのアヒルのくちばしのようなので、このプロジェクトを「ツインダックス」と名付けてしまった。船体は対称船型だから、雌型は一つあれば良い。

構造は取扱いの為にも、テストの実績を上げるにも、軽い方が良い。量産に移すには少し贅沢だが、漕艇のエイトなどと同じサンドイッチ構造を取る。この構造は4〜6mmのハニカム又は構造用の発泡プラスチックの両面に0.1〜0.5mmのCFRP(炭素繊維強化プラスチックス)の表材を貼った軽量構造材で、1m2の重さが0.7〜2kgしかない。船体1本の表面積は3m2だから、1.2kg/m2で上がるとして4kgくらいの重さになろうか。

船体の前端には縦に舵軸が通り、その下端には前翼や滑走板がピンで取り付けられている。船体中央付近には横向きに内径70mmの孔が6つ並んでいて、そこに左右の船体の連結パイプを通す。また水中翼の支柱を保持するのにも一つか二つ後の孔を使う。6っあるのは、テスト時、連結パイプや水中翼の取り付け位置の前後調節を自由にする為である。

5−2 水中翼

図10 コギト
200mスピードレースで6年連続優勝の強豪。
100mは10.57秒で走った
 

水中翼の配置は、人力ボ−ト"コギト"(図−10)の配置を踏襲する。 違う所は、強い横向きの力がストラット(水中翼の支柱)に働くこと、もう一つはブロ−で急に前翼の負担が大きくなることである。ブロ−で前が沈むと主翼も迎角が減って沈んでしまう。それがひどくなればピッチポ−ルだ。だから、前翼が面積不足に陥ったり、スト−ル(失速)したりしないよう、大きめの面積を持たせるのが安全である。その面積の余裕を使って、軽風で翼走に入る時は、乗り手が思い切った前乗りをして、前翼に面積相応の負担を掛けると、主翼の負担がそれだけ軽くなって、その分翼走を早めることができるかも知れない。しかし前翼の面積が大きくなった分、最高速にとっては不利になる。

コギトの前翼は3dm2,主翼は10dm2で180kgを支えている。それに対して今度の計画は4dm2の前翼、8dm2の主翼の2組で120kgを支える。離水速度はコギトの半分近くに減って、5〜6ノットとなる計算である。

離水に当たって、船体のテ−ルの浮力が強過ぎると、バウがなかなか持ち上がらなくて翼走が遅れる。またバウだけが翼走したときに、主翼に充分な迎角を取れるよう配置を決める必要がある。主翼に対する乗り手の前後位置で前翼の負担は大幅に変わる、また主翼の取り付け角の調整も微妙なので、その辺の良いところをトライアル&エラ−で見つけるために、当分水中翼は外付けとし、前述の6つの孔を利用して前後位置と取付角が調整できるようにする。(図−11) またその構造を利用して、進水時には主翼を後に回して引っ込め、浮かしてから正規の位置にセットできるようにする。さらには走行中主翼やストラットに大きな浮遊物が当たったときにはヒュ−ズが切れて後に折畳める構造としたい。この構造は主翼のストラットが長く、強い横力を受けるのでゴツイ構造となることが避け難い。将来、関係位置が決まってくれば、ストラットを船体のキ−ル部から出せる、そうなればストラットは短く軽くなり、抵抗も減って好都合だ。

前翼のレイアウトはなるべくコギトそのままで、横力に対する強度を必要なレベルまで上げる以外は余計なエネルギ−は使いたくない。

図11 「ツインダックス」
 

5−3 舵

前翼のストラットはそのまま舵を兼ねている。横力の大部分は主翼のストラットが支えるが、前のストラットにも少なからず衝撃的な横力を受けることが予想される。その力に耐えるとともに衝突の時には舵軸が曲がっても交換によって再起ができるようにしておきたい。左右の船体が、連結パイプの回りに自由に回転するから、左右の舵は連結するわけにはいかない。連結パイプの中央部に取り付けた十字ヨ−クと舵軸上端に付いたヨ−クを左右独立にヨ−クラインが結んでいる。十字ヨ−クはティラ−(舵柄)と一体になっていて、ティラ−エキステンションは長い両端が使えるタイプにしている。

5−4 セ−ルとその支持

セ−ルはウインドサ−フィン用をそのまま使うつもりである。最近3年間を取ってもウインドサ−フィン用セ−ルは長足の進歩があったと聞いているので、その成果を取り込みたい。特にウインドサ−フィンのセ−ルは、4m2から9m2まで面積が自由に選べるし、性格の上でも高速用、運動性重視など、選択の幅が広い。だから取り付け関係もできるだけウインドサ−フィン用がそのまま取り付くよう工夫するつもりで考えている。マストの下のフレキシブルジョイントもそのまま使う。そしてマストが立っているために、図−9に見るような三角フレ−ムの頂点でウイッシュボ−ンブ−ムの前端を止める。三角フレ−ムの下の角2ヶ所を左右の船体に止めると、マストは立ち上がる。

左右の船体の間の捩じれを拘束しないためには三角フレ−ムの下辺を伸び可能にしておく必要があるかも知れない。あるいは連結パイプの曲がりで吸収してその必要がないのかも知れない。この辺は両方を試して方向を決める。

メインシ−トはウイッシュボ−ンブ−ムの後端とスタンロ−プの間を結ぶ。スタンロ−プが船体のテ−ルを引き寄せるので、三角フレ−ムの下辺は短くはならぬようにしておきたい。三角フレ−ムは、その間にセ−ルをおくから、セ−ルを大きく横へ出せないよう制限する結果になる。高速のセ−リングでは余り障害になるとは思えないが、三角フレ−ムの底辺を後退させればセ−ルの角度が減り、一方前進させるとタック、ジャイブの折りにスキッパ−のくぐるところが狭くなる。ここも走り始めてから丁度良いところを探すつもりで、容易にその位置を動かせるよう考えておきたいと思う。

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6 シミュレ−ション

図12 漕艇の安定装置
センサーは後、平行四辺形リンクで迎角を
一定に保っている。左の計器は傾斜計で、
セッティングの角度を決めるのに用いた。
 
前例の無い乗物を設計する時に、私は操作とそれに対応した乗物の動きを頭の中で繰り返して見る。その中で操作上、構造上の欠陥が判るから、これに次々に対応して設計を進歩させる。頭の中でどうにも動きの判らないところは、次の機会に回す。実際にものを作る段階になると、判らないところはせいぜい2〜3ヶ所で、あとは頭の中での操作でスム−ズに動いて、乗る楽しさもそれなりに予想できるようになる。それが私のシミュレ−ションである。

今回は動きが非常に複雑なので、シミュレ−ションの一環として模型を走らすつもりである。模型は5分の1、船長90cmで作ろうと思う。水中翼のコ−ド(弦長)が2cm以下と小さく、レイノルズ数が実物と違い過ぎて性能の推定は難しかろうが、動きだけを確認するには問題ない。以前漕艇の横安定の為に水中翼の安定装置(図−12)を試したことがあるから小さなセンサー付き水中翼の製作上の見通しは付いている。

柔らかいセ−ルを作るのは面倒だから、風を受ける舷を一方に決めて、木の骨に紙を貼った模型飛行機の翼のような非対象のセ−ルを作る。船体はバルサ材を削り出して塗装する。無線かウインドベ−ン(風見)を使って舵を動かし、針路を一定に保つ。ウインドベ−ンは鳥の羽根を一方の舵軸の頭に取り付けるだけで良い。これも小さな模型ヨット(図−13)で試してうまくいっているので多分無線操縦は必要ない。 左右の船体の捩じれを少なくして走らせたいので、人間の代わりに風上側船体に重りを置く。母船からあちこち調整しながら走らせれば、安定して翼走できるところを見付けられるだろう。

もしかしたら、原理的な欠陥が判明して頓挫するかもしれないが、実物を作ってしまうよりは良い。多分船体の自由な捩じれを拘束する程度を決めるのがヤマ場になると思うが、模型で掴んだ事実をベ−スにして先を考えればより良い結果が得られるはずだ。

模型以外のシュミレ−ションには、大きな山が4つほどある。この山をきれいに越えられたら、それは実物を作るときだろう。

図13 模型ヨットのウィンドベーン
 

山の第一は離水である。最初はなるべく微風で翼走に入ることを考える。まずアビ−ム(真横)の風で加速しながら体重を後ろに掛けてバウを浮かせる。バウが上がったらそれが沈まない範囲で体重を前に移し、主翼の負担を減じて後を浮かせて翼走に入る。その間左右の船体の間に捩じれの起こらないように、船尾の持ち上がった方に体重を移して、左右の主翼の負担を均等にしてやる。走っていて風が落ちた時も、同じようにして主翼の負担を軽く、一様にしてやるのがよい。

第二の山は翼走である。スピ−ドの乗っているときは非常に安定していて体重によるバランスが不必要なはずだ。艇が捩じれて自動的にバランスを取ってくれるからで、メインシ−トと舵を固定すると、スキッパ−は艇の上をどこでも歩き回れるだろう。

しかしやはり捩じれが無くなるよう、体重でバランスして走り続けるのが望ましい。5〜6m/sの風でちょうど風上の船体に乗るぐらい、それ以上になるとハイクアウト(船の外に身体を張り出す)する。

こうして体重でバランスするのは、ブロ−や風の止まりに影響されず翼走を続けるよう安定と翼走のゆとりを確保するためで、前述のように左右のバランスを取るほか、風の止まった時は、前乗りをして主翼の負担を下げ、次の吹き出しまで翼走を持たせる。またブロ−に対しては後乗りをして突っ込みを避ける、その辺は普通のヨットと同じである。

第三の山はタックとジャイブである。船体が余り軽いので、タックは難しいかも知れない。しかしある程度スピ−ドが出ていれば、タック直後に翼走からは落ちても、一応勢いで回り切れるだろう、もう一度アビ−ムまで落としてから加速することになる。

この時スキッパ−の移動はマストの前を回れば良いから問題は少ない。しかし移動中メインシ−トと舵を固定する必要がある。メインシ−トの固定はカムクリ−トで良いが、舵の固定はこれからの課題である。

ジャイブは翼走のままで可能な筈だが、スピ−ドが落ちていると、セ−ルが張った瞬間、バウが突っ込んでスキッパ−はマストの前を移動できないかも知れない。その場合は三角フレ−ムの下をくぐるか、後を回らねばなるまい。この場合にも当然メインシ−トと舵の固定が要る。

最後の山は船の上げ下ろしである。一人で乗る以上なるべく一人でやりたい。しかし主翼が水中深く沈んでいるのでこれは容易でない。やはり水に浮かべる場所の状況に合わせて考えるしかなさそうだ。主翼は後へ畳んでなるべく浅くする。前翼は畳むのが困難だし主翼に較べてずっと浅いのでそのままで考えることにする。

マリ−ナなどのスロ−プではカ−トに乗せてバウを沖にして浮かべる。マストを立てるのに浮き桟橋に付ける必要がある。しかし水中翼が船体の横に突き出しているので横付けするには、下に当たる所の無い浮き桟橋を選ぶか、あるいはヨット側にパイプ製のガ−ドなどを取り付けておく。取り付けには連結パイプの余った孔が便利だ。前翼の方は将来「ピッチポ−ル止め」の形を工夫することでガードができそうだ。

ここまでやっても、船を出しカ−トを引き上げようとすると一人ではどうしても無理だ。船を上げる時のこともある。マリ−ナの人を頼むか、親しい頼める人を作ることになろう。もう一つのケ−ス、砂浜から出す場合は助っ人がいそうにないから船の方を一工夫してみよう。主翼を引き上げると軽いゴムタイヤが下に張り出してくるからカ−トは不要になる、マストも浜で立てて、水に浮かべてそのまま乗って出て行く。そこで水中翼を下げると自動的にタイヤは上がる仕掛だ。帰りには、遠浅で波の静かな浜でないと困る、など制限はあるが一人でやれそうだ。しかし近くに預ける所がないと、バラして持って帰るのが大変だろう。このタイヤはマリ−ナに預ける場合にもカ−トが要らなくなって便利に使えそうだ。

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7 実現計画

ここまで考えてくると、この構想はぜひ実現したい。そして新しい楽しみをマリンスポ−ツ界に提供できたら嬉しいと思う。

私は当初、自宅の庭でこの船を作ろうと考えていた。それはできない事ではない。しかしテストの様子をシミュレ−トして見ると、一人でこのプロジェクトを進めるのは相当に困難なことだ。特に水中翼のチュ−ニングには数多くのトライアルランが必要だし、それには随伴艇も欲しい、沈した時には助けて貰いたい。

模型試験がうまく進んだら、協力して貰える所を探すことになろう。数が売れて経営に寄与するかどうか、予想の付かないプロジェクトだけに、どんな話になるか判らない。

しかし私にとっては、この船が軽風の中を20ノットオーバーで音もなく快走する姿を想像するだけでこの上もなく楽しい。捩じれるカタマランなんて、誰も考えなかった事だし、捩じれるお蔭ですごく安定して、バランスしなくとも疾走する状態が嬉しい。人力水中翼船の技術がここに生きるのも嬉しい。そして、これだけ楽しみにしているのだから、そのうちにはきっと実現できることだろうと思うのである。

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参考

参考 1 サーフスキー

 

参考 2 人力ボート7年間のスピードの進歩

平均すると1年に1.3ノットずつ速くなっている。一方米国では
91年に18.50ノットを出して以来、記録は低下するばかり。
 

参考 3 各艇の抵抗と速度の関係

 

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