第38回セーリングヨット研究会議事録


注:Internet Exploreの最新版でご覧ください.(Netscapeでは,図が過大表示されます.)

1.日 時:2009年 12月 5日(土)

        13:00〜17:30 研究会
        18:30〜20:30 懇親会


2.場 所:

        研究会 - 鎌倉女子大学 大船キャンパス 視聴覚ホール
        懇親会 - 鳥恵(TEL 0467-44-9914)


3.出席者:(敬称略,順不同)

雨宮伊作、市川昌幸、一色 浩、伊藤 翔、今北文夫、楳田壽雄、梅田直哉、鹿取正信、 金井亮浩、木下 健、国枝佳明、小暮欣也、小林 寛、沢地 繁、添畑 薫、高石敬史、 高橋太郎、谷 信男、田原裕介、寺尾 裕、戸嶋俊之、二瓶泰範、牧野久実、増山 豊、 松井亨介、松尾宏平、丸尾 孟、村尾麟一、茂木雅洋、矢島 博、横井達郎、米山蓉子 新入会員:奥 知樹(富山高専)
オブザーバー:榎本 至(鎌倉女子大)、木村安宏(大島商船高専)、森井 亨(湘南工科大学)、 石川富夫(日本飛行機(株)、研究会のみ参加)
懇親会のみ参加:林 賢之輔、西村一広
計39名

←クリックすると大きな写真をご覧いただけます.

 【皆さんの写真,研究会の様子はこちら】


4.会員近況報告

←クリックすると大きな写真をご覧いただけます.

 今回は、牧野久実先生のお世話で、鎌倉女子大学の大船キャンパスで開催させて頂きました。 憧れの女子大での開催のためか、はたまた鎌倉近郊に在住の方が多いためか、いつもに増して 多数の方に参加頂きました。
 会員近況報告では、牧野久実先生から歓迎のご挨拶を頂くとともに、新入会員の奥知樹様、 ならびにオブザーバー参加の榎本至様、木村安宏様、森井亨様、石川富夫様をはじめ、 参加者全員からの近況報告を頂きました。厳しい事業仕分けにさらされている航海訓練所の 雨宮船長からは、「我が国の海員教育は大事だから頑張れ。でもお金は自分で稼げ。」 と言われて帰ってきたとの報告がありました。松井様からは、商船のCO2削減がいよいよ 本格化するために、造船メーカーとしては来年中に対策を立てなければ3年後からの 仕事ができなくなる。このため既存の技術の効率化とともに、いよいよ風力の有効利用を 考えないといけない状況になりそうとの報告がありました。
 ご講演では、鎌倉女子大の牧野久実先生から、古代のヨルダン川の水運に関する興味深い お話を頂きました。また同学の榎本 至先生から、普段あまりなじみのない水球競技について ご説明を頂くとともに、オリンピックを目指してどのようにコーチングするかという、 ヨット競技にも通じる内容のお話に感銘を受けました。一方、韓国のウルサン大学の教授に なっておられる一色先生がこの研究会のために一時帰国され、水の摩擦抵抗低減に関する ご講演を頂きました。内容は下記講演要旨に。


5. 議事
(1)スピネカー風洞試験速報               増山 豊(金沢工業大学)

←クリックすると大きな写真をご覧いただけます.

 スピネカーとメインセールを用いた風洞試験の運用を開始したので、 その状況を速報として報告する。 風洞装置は、金沢工業大学の専門実験用の風洞装置を用いている。 この風洞装置は、通常50cm角の測定部で用いられているが、 ノズル部を取り外すと1.5m角の測定部として用いることができる。 今年度は、セール模型に作用する流体力とセール形状の同時計測に 関する予備試験として実施した。 スピネカーのようなフライングシェープのセール形状を計測するために、 SolidFromPhoto と呼ばれるフリーソフトを用いた。 このソフトの精度を検証するためにピラミッド型の固体模型を製作し、 写真から得られた形状との比較を行った。その結果かなり良い一致度が 得られることがわかった。

パワーポイントのPDFファイルはこちら





(2)C Type WIGの設計シミュレーション               村尾麟一

←クリックすると大きな写真をご覧いただけます.

荒れた海上を航行できるためにはWIG(地面効果を利用する水上機)は 十分大きいか或いは高い高度でも飛行できるC-タイプのWIGである必要がある。 大型のWIGは大きい交通需要を前提とするので、中型で実用化するにはCタイプが 不可欠と思われる。
地面効果利用に適したWIGが地面効果外でも飛行可能である条件を、 提案した設計シミュレーションモデルによって検討した。 主翼・尾翼の配置及び面積・全備重量、重心位置が与えられた場合、 揚力及び縦モーメントの釣り合い条件を地面効果内外で満足させる迎角・ エレベータ角・推力の関係がシミュレーションモデルにもとづく数値計算に よって求められた。
松田恒久のCタイプWIGラジコン模型の実験結果と比較してモデルが定性的に 支持されていることが確かめられた。


(3)超撥水表面による摩擦抵抗の減少           一色 浩(ウルサン大学)

←クリックすると大きな写真をご覧いただけます.

レンコンの葉の上では水滴が球状になるほどの撥水性があり、Lotus effect として知られている。 これはもともと葉に撥水性がある上に表面に小さな突起があり、これによって表面と水滴の間に 空気の層が形成されるためである。 この効果を応用するために、マイクロメータからナノメータレベルの突起や溝をつけた表面を製作し、 摩擦抵抗低減の効果を調べた結果について報告した。この特徴は、乱流でも低減効果が認められることであり、 高Re数でさらに有効なことである。 またスリップレングスを既知として、CFD計算でも効果を確かめることができる。 リブレットとの違いについて質問があったが、リブレットよりも溝のスケールがはるかに小さく、 摩擦抵抗低減のメカニズムは全く別のものである。また、空気流れに対する効果について 質問があったが、残念ながら期待できないものと考えられる。

パワーポイントのpdfファイルはこちら


(4)平成21年11月西宮沖ヨット集団転覆漂流事故について
         ―事故報告と今後の対策―                梅田直哉(大阪大学)

←クリックすると大きな写真をご覧いただけます.

 大阪大学体育会ヨット部は、平成21年11月2日午前8時、風速2m/sのなか、午後から風速9m/sとなるという 天気予報を確認のうえ、8艇のヨットと救助艇で新西宮ヨットハーバーを出て練習を行った。 練習を終了し新西宮ハーバー東口に到着した時点(11:15)で、上空への寒気団侵入による 西からの強風13m/sに遭遇し、2艇が転覆、2艇が航行不能となり、うち3艇が港口の防波堤に 座礁した。残る4艇は沖合に逃げたが、うち1艇が漂流し鳴尾浜に座礁、1艇が転覆した。 これに対し、神戸海上保安部の巡視艇、ヘリが出動、海上の乗員が救助され、大々的に報道されるに至った。
 この事故の技術的原因としては、天気予報にマージンを見て出艇判断しなかったこと、 転覆艇からのアンカリングの練習不足、ハード船体のインフレータブルボードの欠如、 帆走限界の把握不足などが考えられる。この点に留意し今後の安全策を考えるとともに、 関係者にお詫び申し上げたい。
(以下、増山からのコメント)
 梅田先生はヨット部部長として、事故処理ならびに海上保安部との対応にあたられた。 この中で海上保安部は、関西学生ヨット連盟が阪神港長から港内行事の許可を得て練習 していることを上げて、(気象警報ではなく)気象注意報発令にともなう練習中止の 遵守を強く求めてきた。これに対して梅田先生は、ヨットレースは気象注意報下でも 行われる競技であるので、その条件は受け入れられないとされた。
 その後の海上保安部からの処分として、港内行事許可申請の審査を厳格化するとともに 部員が気象講習を受けることが指示された。また学内の処分として、3ヶ月間の練習と 試合を禁止するとともに、その間救急講習や安全対策を徹底すること、ならびに練習禁止 期間が解けた時点での部長辞任が指示された。
 梅田先生から、このような事態に対処する上での重要なポイントが以下のように示された。
  • 天候判断の甘さを防ぐために、天気予報にはある程度のマージンを見ること。
  • 狭水道での転覆は直ちに座礁につながるので、まずアンカーを打つこと。そのために、アンカーの種類、ロープを見直すとともに、“転覆した”艇からのアンカリングの練習が必要。
  • ハード船体の救助艇は防波堤付近では役に立たない。ハード船底を持つゴムボートが有効であり、救助艇に随伴させるべきである。
  • 帆走限界風速の正確な把握が必要(スナイプでは風速12m/sというレース中止基準がある)。
 梅田先生の海上保安部に対する対応は誠に適切であり、最終的に行事許可にあたっての気象基準の見直しなしということで 決着したとのことです。また、JSAFではレース委員会のURLに、 「安全」の項目で安全対策の提案を公開しており、梅田先生も参考にされたとのことです。
ディンギの指導をされる方は、ぜひご覧下さい。


(5)考古資料からみたヨルダン川関連水系の水運     牧野久実(鎌倉女子大学)

 古代における南レヴァント地域における通商は王の道、海の道といった陸路の他、地中海を中心とした海運、 とりわけフェニキアによるものがよく知られている。これに対し、内水面を利用した水運についてはこれまで ほとんど関心が寄せられていなかった。この地域の内水面の中心はキネレト湖、ヨルダン川、死海を結ぶヨルダン川 関連水系である。
 1991年より聖書考古学調査団によって行なわれたキネレト湖東岸エン・ゲヴ遺跡の発掘において、 発表者は紀元前5〜紀元前3世紀頃におけるフェニキア人の交易活動の一端を示す壷などを発見した。 歴史史料にはそれ以前の鉄器時代からフェニキア人がレバノン山脈の木材だけでなくキネレト湖東部の バシャン地域の木材を造船用に用いていたことが記されている。
 同地域においてフェニキア人がどのような交易活動や水運利用をしていたのかを示す具体的な資料は まだ十分には発見されていない。しかし、少し後の時代ではあるが、キネレト湖で見つかった港の跡や長さ9m、 幅2.5mの木造船、死海では、死海で発見された重さ500kgと推定される碇、ヨルダン川東部のメデバ遺跡出土の モザイク画に描かれた死海とヨルダン川を航行する帆船は、ヨルダン川関連水系が水運として利用されていたことを 裏付けている。発掘された船をもとに船体形状が復元されているが、これらの船がどのように帆走したのか 興味あるところである。


(6)水球競技のゲーム分析〜コーチングを支援する実践研究〜 榎本 至(鎌倉女子大学)

 水球競技は19世紀末にイングランドにて発祥した、ゴール型の集団競技である。ボール保持者へのタックルが 許されていることから、水中の格闘技とも称されている。現在、欧州各国にはクラブチームから構成される プロリーグが存在しており、バルカン半島のセルビア、クロアチアやハンガリーなどが強豪である。 残念ながら我が国ではなかなかマイナースポーツの域を脱しえないでいる。オリンピックに出場するためには アジアで1位にならないといけないが、日本は現在のところ2〜3位といったところに甘んじている。 この現状を打破して、選手を強化するためのコーチングを支援する、次のような取り組みについて述べた。
 Notational Match Analysis:競技のプレー中に行われたシュートや反則などを、あらかじめ定められた分類項目に 沿ってリアルタイムに記録し、選手やチーム全体の傾向を分析しようとするものである。記録者は分類基準に 精通するとともに瞬時に判断して記録しなければならないので、かなりの熟練が必要である。試合直後に選手自身に 記入してもらうチェックシートも作成しているが、記入を嫌がる場合もあり、また記憶があいまいな場合も多い。 現在筆者らが開発したシステムが運用中である。
 Time-Motion Analysis:あらかじめ定義した運動項目ごとの出現頻度、出現時間、成功率などを記録分析する 手法である。本来は工場労働者の生産管理的な労働環境評価のために開発された手法であるが、現在では プロスポーツ選手の給与査定などにも用いられている。

パワーポイントのpdfファイルはこちら


6.懇親会

←クリックすると懇親会の様子の写真をご覧いただけます.


 講演会終了後、大船駅前の「鳥恵」へ移動し、盛大に懇親会を開催いたしました。 牧野先生にご手配頂いた熱々の鳥鍋は最高でした。また、懇親会中、来年夏に予定している 「セーリングヨットと帆走性能シンポジウム」の内容についても話し合われました。


7.次回予定

   日時:3月頃の土曜日
   場所:夢の島マリーナ



(文責:基本的に講演者に記述頂きましたが、一部増山が加筆いたしました。)

 SYRAホームページへ