エアロ型リグの空力特性


大橋 且典

平成14 年度
農林水産業・食品産業等先端産業技術開発事業
資源エネルギー有効利用技術の開発
社団法人海洋水産システム協会


の開発事業の一環として以下のとおり空力試験を行ったので報告します。
(このレポートはすべて、上記報告書からの抜粋です)



帆装効率に関する模型実験

(1) 目的
 軟帆を用いた帆装としては、効率の良いリグであり、かつ自動操帆に適していると考えられるエアロ型リグの帆装効率を確認するため、模型を製作し、実験により流体力を計測すること。

(2) 実験の内容

@ 実験の装置と方法
大阪府立大学船舶試験水槽にある高速曳引車を用いて、模型リグを水上にセットし、空中を曳引し、検力計により流体力を計測した。
同大学船舶試験水槽の仕様は、
長さ:70m 幅:3.0m (深さ:1.6m)
高速曳引車:最高速度15.0m / sec
である。
この高速曳引車は、軽量パイプトラス構造のリジッドな架台をワイヤーによって曳引し、巻き取りモーターによってレール上を走行する。速度の調節はモーターの回転数によって制御され、十分な精度を持つことが確認されている。

A 模型リグ
想定した実船モデルは、全長約50m、セール面積550平方mである。
試験水槽棟の大きさ、および検力計の容量などから、模型の縮尺は1 / 35 とした。曳引車の上部、側部ともに十分な空間があり、閉鎖率その他の修正は必要ないと考えられる。
船体前後中心線上に2本のマストを配置し、マストとブームは一体となって回転し、それぞれに、メインセールとジブセールを展帆する。船体を代表する直方体の台座は検力計にボルト締めによって固定され、検力計と共に回転し、進行方向に対して任意の角度に設定できる。

B セールの仕様、形状等
実船におけるレイノルズ数Re は、風速8m/sec において約6.5 x106 であり、模型では同じ風速下で、Re は約1.9 x105 である。翼型のように肉厚の薄い物体では、Re 値の違いによる揚力係数および抗力係数の変化は小さく(揚力係数はRe の増加とともに微増、抗力係数は微減する傾向が見られる)、模型による流体力係数を実船に用いることができる。また、どちらもほぼ乱流域にあり、表面粗度による修正も必要ないものとした。

(3) 実験の経過
曳引速度は、セール形状を良好に保ち、かつ検力計の容量を超えない範囲を選び、8m/sec とした。この実験装置の性質上、走り始めてから停止するまで約7秒、定常走行する時間は約3秒である。加速中および減速中は振動を伴うデータが記録されるが、これらを削除し、定常状態でのデータを平均化して記録した。また、同一条件で2回走行し平均値を求めた。
実験棟内の空気の乱れは、煙草の煙を目視した結果から判断すれば、十分小さく、走行間隔に問題はない。

(4) データの取得
座標系および後述する@からCに対応する試験状態を図2-2-2.12 に示す。

@ 台座のみ。回転角度(h)0°から180°まで。
計測された3分力のうち、上下方向成分Fz 値は、回転角によって特異な値を示した。
これは、架台のパイプの形状(斜め部分がある)と台座との干渉によるものと思われる。流体力としてのFz 値は、他の成分Fx、Fy 値に比較して小さいと考えられるので、この実験をとおして、Fz 値を計算の対象外することにした。
A以降のデータから、対応する@のデータを差引き、最終結果を求めた。

A 1本マスト、台座固定(h=0)。セールの迎角(α)0°から90°まで。

B 2本マスト、台座回転(h:0°〜180°)、セール・トリム角(m1およびm2)。
前部セール(S1)および後部セール(S2)の相互干渉を含むデータを採取したが、ある見掛けの風向(BAW)にたいして、最も効率の良い迎角(α=h−m)にセールをトリムすることが模型の機構上できなかったので、Aのデータを利用して修正を加えた。

(5)データの整理
@セールにかかる流体力は次式によって、無次元化した。
CL=FL/(ρ*V2*S/2)
CD=FD/(ρ*V2*S/2)
CX=FX/(ρ*V2*S/2)
CY=FY/(ρ*V2*S/2)

ここで、
ρ:空気密度(kgf*s2/m4
V :見かけの風速(m/s)
S :セール面積(m2
FL:揚力kgf     CL:揚力係数
FD:抗力kgf     CD:抗力係数
FX:推進力kgf    CX:推進力係数
FY:横力kgf     CY:横力係数
である。
これらの係数は、台座が回転する場合(実際の帆走状態に相当する)、以下の関係にある。
CX=CL*sinβ-CD*cosβ     β:見かけの風向BAW
CY=CL*cosβ+CD*sinβ     α:迎角
CT=√(CX2+CY2)

A無次元化に際して、S は単純にセール面積そのものとし、マスト、ブーム等のリグの面積は不算入とした。ただし台座についてはそれ単独で空力特性を計測し、リグの特性から控除した。

B通常型リグと異なり、エアロ型リグはジブもメインセールと同じ要領で回転できるので、見かけの風向ごとのセールの推進力性能の最大化は、現物のトライアンドエラーによらず、CD-CL 曲線を使用して行った。

C横力の着力点(CE)位置の計測については以下の方法とした。
CEH=MX/FY
CEL=MZ/FY
CEH:着力点(CE)の上下位置
CEL:着力点(CE)の前後位置
着力点(CE)位置は最終的に、セール面積中心からの距離とし、
CEH は:当該セールのラフの鉛直長さを100 とした%表示
CEL は:当該セールのフットの水平長さを100 とした%表示
としてあらわした。

(6)解析と評価
@1 本マスト2 枚セール
ア.CD-CL グラフ(図2-2-2.14
イ.CX-CY グラフ
図2-2-2.15 に示すエアロ型リグ1 本マスト2 枚セールのCX-CY グラフに加えて、比較のために通常型スループリグ(レーシングディンギー)のCX-CY グラフを示す。

・通常型リグのCX
見かけの風向BAW が横から後へ回わるにつれて、ジブの効果的展開が難しくなるので、一般にBAW が真横(90 度)を過ぎたあたりからCX 値は低下を始める。この例ではBAW85 度付近をピークとしてCX値の降下が始まっている。しかもCX の最大値は1.3 付近にとどまっている。

・エアロ型リグのCX 値(図2-2-2.15
これに対してエアロ型リグの場合はBAW 全方向でジブの効果的展開が可能となり、推進力係数CX は最後まで高い数値を維持することが可能となる。
具体的には、通常型リグではピークであったBAW85 度付近を過ぎてもなおCX 値の増加が続き、BAW110度付近にきてやっとピークを打つ。
しかも、ピーク後もほとんどその値をBAW180 度まで維持し続ける。
つまり、エアロ型リグは通常型リグに比べて、大きな推進力係数CX を広い運用範囲にわたって維持することができるということがわかる。

・エアロ型リグのCY 値(図2-2-2.15
エアロ型リグでは、BAW130 度付近までは揚力ピークゾーンを利用して推進力を得ている。それ以後は抗力の大きなゾーンを利用して推進力を得る形となっている。BAW130 度付近のCY 値の不連続点は揚力ピークゾーンの利用から抗力ゾーンへの乗り換え場面を表している。BAW110 度過ぎから130 度付近まで、CY 値はマイナスとなるが、これは船体に風上側ヘ引き上げられるような横力が働いていることを示す。

ウ.CEL とCEH(図2-2-2.17) CEL、CEH 共にその意味が重要となるのは、必要復原力と操舵角に大きな影響を与える、つまり横力係数CY が最大となる場面である。それは見かけの風向BAW で35 度付近、迎角αで20 度付近である。
エアロ型リグ1 本マスト2 枚セールのCEL とCEH の代表値はα20 度付近の値、つまり
CEL=+4.4%
CEH=-0.9%
ということになる。

A2 本マスト
2 本マストの場合、回転軸が複数となるので、前例で使用した「CD-CL 曲線を使った推進力性能の最大化」は使えない。
また、両マストの相互干渉の概要を探る必要もある。
よって、以下の段階を経て2 本マスト方式の流体力を抽出した。

ア.2 本マストで、各BAW ごとに、最も効率が高いと思われる前後両リグの開き角度を特定して、それぞれの流体力を測定する。
イ.1 本マスト(2 枚セール)でも、上記と同じ条件で、それぞれの流体力を測定する。
ウ. ア.とイ.の結果を数値比較し、両者の関係を特定する。
エ. イ.で得られた「1 本マスト2 枚セール」の「CD-CL 曲線を使った最大推進力性能」とウ.で得られた比較値とを掛け合わせて、2 本マストの最大推進力性能を決定する。
以上の方法で得られた結果が、図2-2-2.19 である。

1 本マスト(2 枚セール)と全体の傾向は似ているものの、

・BAW が小さい(70 度付近まで)、つまり前からの風で、後のリグが前のリグの干渉を受けて大きく効率を落として、CX 値が落ちる傾向にあること。
・BAW が大きい(150 度付近以上)、つまり後からの風で、前のリグが後のリグの干渉を受けて大きく効率を落として、CX 値が落ちる傾向にあること。

の2 点が顕著であった。