第22回セーリングヨット研究会議事録


1.日 時:2002年 7月 6日(土)

        13:00〜17:00 研究会
        17:30〜19:30 懇親会

 この研究会開催からちょうど2週間後の、7月20日に野本先生が海の事故で亡くなられました。この議事録をまとめている最中のできごとであり、茫然自失してしまいました。議事録作成どころか、研究会活動も凍結してしまい、結果としてその後1年間、喪に服することになりました。
 研究会活動は、野本先生の一周忌を前にほぼ1年ぶりに再開し、2003年7月12日に第23回を開催しました。これを受けてここに1年遅れではありますが、第22回研究会の議事録をまとめました。今は亡き、野本先生のご様子を思い起こしながらご高覧賜れば幸いです。


2.場 所:

        研究会-「なにわの海の時空館」会議室
            〒559-0034 大阪市住之江区南港北 2-5-20
        懇親会- 海鮮居酒屋マルシェ
            World Trade Center Building 46F


3.出席者:(敬称略、順不同)------Nは初参加 、sは学生

木下正生、桜井晃、田原裕介、寺尾裕、戸嶋俊之、永海義博、西川達雄、野本謙作、林賢之輔、深澤塔一、福丸 哲N、堀内浩太郎、増山豊、松井亨介、矢形孝平N(日立造船)、山口眞裕、横井達郎、小林寛s(東大、木下研)、青木一紀s(阪大、梅田研)、畳谷龍人s、遠山賀志s、利根川健一s、坂本信晶s、浜田英一郎s、小池祐輔(以上、阪府大、田原研)----------(以上、25名)
【参加者の写真はこちら】

4.議 事

(0−1)浪華丸見学会

 研究会開催に先だって、「なにわの海の時空館」のメイン展示物として据えられている「浪華丸」の見学会を行いました。船上において海上実験当時の様子を、計測を担当した野本先生、桜井先生、増山らから説明頂いた。こうして館内におかれた船をあらためて見ると、「何とでかい船だなー」と思わずにはおられず、「本当にこんな船を海に浮かべて帆走性能を調べたんだなー」という感慨が涌いてきました。とにかく野本先生の情熱がなければ絶対にできなかったことだと、あらためて感動しました。
【見学会の写真はこちら】

上記見学会の後、午後2時より同館内の会議室において下記講演会を行った。


(0−2)会員近況報告

 野本先生から、近世沿岸帆船研究に関し、明治後期からこれらの帆船に瞬く間に広がった伸子帆(しんしぼ。竹のバテンを入れたジャンク風の帆)のルーツがいよいよ明らかになってきたとのお話があった。山口さんからは「船と海のサイエンス」創刊に関わり、いよいよ7月18日に創刊号発売にこぎつけることができた。木下さんからは日立造船とNKKの造船部門が合併して、ユニバーサル造船が発足するというお話があった。世の中の確実な変化が身近に感じられる。新入会の矢形さんは九州大学船舶出身で日立造船の新入社員。また、福丸 哲さんは東京湾でヨットを櫓で漕いでいるとのことで、野本先生の信奉者であるとの紹介があった。


(1)コンセプトボート2002(英国舟艇工業会の設計コンテスト)     堀内浩太郎

 コンセプトボート2002は英国舟艇工業会(BMF, 注1)によって企画されたボートデザインのコンペティションです。このコンペによって未来のボートの夢を描き、それによって小型ボートのユーザーやデザイン、開発、生産に係わっている人々を元気付け、これからのボートの進歩やボート遊びの発展を促そうというのが狙いです。
 この企画は昨年9月のサザンプトンボートショーで発表され、今年6月末にはエントリーが締め切られました。そしてこの9月サザンプトンボートショーでBMFと英国造船学会(RINA, 注2)、ユーザーから選ばれた委員会による審査が行われます。そして賞の候補(Short List)がマリントレードショーの折に決まり、来年1月3日から13日までのロンドンボートショーでは、最終の結果を発表すると共に上位艇の実艇もしくは模型を展示するということです。
 審査の視点は、1:要約、2:目的の説明、3:オリジナリティ、4:美的なアッピール、5:目的に合っているか、6:関連規則にミートするか、7:実際に製造できるか、8:使って実用的か、9:マーケットのポテンシャルはどうか等で、1位は5000ポンド、2位3000ポンド、3位2000ポンドの賞金が出るそうです。
 このコンペには世界中のすべての人が参加できます。ユーザーでもプロでも個人でも団体でも学生でもオーケーですし、国籍も問いません。参加できないのはコンセプトボート2002の関係者だけです。確認したところ、今回は96の応募があったそうですから、今後世界中のボートが好きな人達の注目を集めることになりそうです。そして良い作品があれば狙い通りこのイベントは世界のボートの発展を促す起爆剤になりそうな気がしてなりません。  まだ決定してはいないようですが、BMFは今後この行事を継続して行いたい意向ですので、その場合には皆様にも是非ご参加頂き、ボーティングの発展にお力添え頂きたいと思います。ところで今年のテーマは「運べるボート」(注3)でした。来年のテーマは9月に発表になるようです。そして締め切りは来年の6月末になることでしょう。今年の詳細はホームページhttp://www.conceptboat.comでご覧頂けます。
 ご参考に今年私がエントリーした案をご紹介します。集めた参加作品を並べて展示する機会があるらしく、A3乃至A4の大きさの紙に図面を集めて欲しいという事務局の意向でしたので、A3に三面図、写真等すべての図を収容しました。この他に同じA3の紙に1000ワード以内の説明書を作りましたが、これは割愛させて頂きます。
発表図はこちら

注1: BMF =British Marine Federation 
   1500のメンバー会社で構成された英国ボート産業の工業会。
注2: RINA = Royal Institute of Naval Architect
本部を英国に持つ国際的な船の技術者の集まり。
注3: Transportable Boat
リクリエーション用、商用を問わず長さ24m以下で容易に運べる船。(24mが不思議ですが)


(2)ひれ推進ボードの海上実験     横井達郎

 ウインドサーファーのボードの両サイドにフィン(ひれ)を取り付け、これを足で上下させて推進するものを開発中。まだ、人が歩く程度の速度であるが、今後改良していきたい。
【写真および図はこちら(pdf)】



(3)浪華丸の下手回し操縦運動シミュレーション(その3)     増山 豊


野本先生から上手回しの講義を受ける増山先生
 これまで研究会で何回かお話してきた内容(前回の議事録参照)の延長上にあるが、今回はその浪華丸の展示してある会場での発表であるため、シミュレーションを下手回しだけではなく、上手回しまで含めて行ってみた。その結果、「ひょっとしたら浪華丸は上手回しが可能だったかもしれない」という結論になった。これに対して、野本先生から上手回し中の帆の流体力係数の見積が甘いのではないか、というご指摘があり、上手回しで考えなくてはならない帆の状況について長時間の講義があった。この指摘を受けて、再検討を行うことになった。

後日談:上手回し中の帆に作用する力に関しては、このことがきっかけとなってあらためて九州大学にて風洞実験を行うことになった。この測定結果をもとにシミュレーションをやり直した結果、やはり野本先生のご指摘のとおり、上手回しは無理のようであることが明らかとなった。これについてはまたあらためて報告するので、今回の発表内容については詳細を添付しないことにする。




(4)セーリングヨットの船型データベース(中間報告) 〜船型数値の移り変わり〜     青木 一紀

 この研究の背景として,近年セーリングヨットの船型の傾向が,安全性・耐航性の性能に関して矛盾してきているのではないかという,野本先生他による指摘がある。
そういった指摘を解明すべく,まず第一段階として,できる限り多くのヨットの船型データを集めてデータベースとして整理し,さらにセーリングヨットの船型を表す諸係数値の変遷を様々な角度から調べることを行った。
 セーリングヨットの船型はレーティングルールとの関わりが大きいので、単に年度で整理するだけではなく、レーティングルールの変化と関連付けて整理すべきとの指摘があった。
【発表資料はこちら】



(5)キールバルブの凹みに関するディスカッション     基調講演:桜井 晃、田原裕介   資料提供:増山 豊

 西村さんのニュージーランドからの風の便りが発端となって、研究会のメーリングリストが大いに盛り上がった内容について、あらためてディスカッションしようと企画したものである。まず、桜井先生より飛行機のエリアルールに関連してお話しいただいた後、田原先生から境界層とのかかわりが大きいのではとのお話を伺った。興味深かったのは、CFDの専門家である田原先生が、古典的な流体抵抗の実験データ集として有名なHoernerの「Fluid Dynamic Drag」のデータを提示しながら説明され、「CFDをどんどんやっていくと古典に目が行くんですね」と言われたことであった。参考資料として、メーリングリストでディスカッションされた内容をまとめたものを示す。
【ディスカッション資料はこちら】



5.懇親会

 研究会終了後、「なにわの海の時空館」を見下ろす、World Trade Center Building 46Fにある「海鮮居酒屋マルシェ」にて懇親会を行いました。場所がやや狭くすし詰め状態ではありましたが、その分密度も高く、若い学生諸君に囲まれた野本先生の楽しそうな笑顔が印象的でした。
 今回の開催にあたっては、関西在住の田原先生、木下さんに大変お世話になりました。また、「なにわの海の時空館」の皆様にもご協力頂きました。厚く御礼申し上げます。
【写真はこちら】


6.特記事項

 この研究会のほんの2週間後に野本先生が亡くなられるとは思いもよりませんでした。野本先生最後の研究会が、海上帆走実現に心血を注がれた「浪華丸」のもとで開催されたことが、せめてもの慰めと言えるでしょうか。懇親会での楽しそうな笑顔も、これまでに見たことのないような柔和さだったことも申し添えておきたいと思います。  研究会は、この後1年間の喪に服しました。あらためて野本謙作先生のご冥福をお祈り申し上げます。


(文責;増山。なお一部の講演要旨は講演者ご自身に記述いただきました。)

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