キールバルブの凹みに関するディスカッション基礎資料

2002年7月6日

編集: 増山 豊


 本ディスカッションの発端となった、SY研メーリングリストでのやり取りをまとめました。


From: "Kazu Nishimura"
Date: Tue, 15 Jan 2002 12:32:09 +0900

増山先生、桜井先生、
西村一広です。
本年もよろしくお願いいたします。
昨年12月初めからニュージーランド滞在中です。
SY研究会の議事録ありがとうございます。
現在オークランドには世界一周レース途中のレースフリートが寄航中です。
それらに乗っている友人セーラーといろいろ話をしたり、ボートを見たりして
います。
今回のレース参加艇のデザインで新しい試みを見つけたので、報告します。
ブルース・ファーの設計艇すべてに採用されている試みですが、
キールストラットを取り付けている部分の船体をへこませています。キールス
トラット下端に付いているバルブも同様で、キールストラットの下端の部分
で、バルブのふくらみをマイナス形状(断面積を小さくしている)にしています。
これは、断面積が大きく変化する部分で抵抗が増えるということに着目し、艇
の前から暫増してくる水面下の断面積が、キールが始まる部分で急激に増える
のをハルとバルブの断面積を減らすことで相殺するのと、キールの有効部分を
大きくするが目的ではないのかな、と思いますが、ご専門のお二人はどうお考
えですか?
西村一広




From: Akira Sakurai
Date: Tue, 15 Jan 2002 13:25:11 +0900

桜井です。
飛行機屋としては、非常に興味のある話です。
音速近くかそれ以上で飛ぶ飛行機でも全く同じ考慮が払われていて、エリアルール
(断面積法則)と呼ばれています。音速というのは空気の中を伝わってゆく圧縮波の速
度で、飛行機がやってくるという情報がまわりの空気に伝わる速度でもあります。
行速度が音速近くになると、この情報が伝わってまわりの空気が飛行機から遠ざかろ
うとする以前に、飛行機がやってきてしまうので、まわりの空気は飛行機によって強
い圧縮や膨張を受けるようになり、この結果、音波がもっと強くなった波である衝撃
波(ショックウェーブ)が発生するようになります。音速以上で飛ぶ飛行機では、衝撃
波の発生が重要な抵抗要因となり、造波抵抗と呼ばれます。

この造波抵抗を少なくするためには、断面積の分布ができるだけなめらかであること
が必要で、翼がある部分の胴体を凹ませたり、余分な付加物を付けて断面積を整えた
りします。この法則は1950年代の終わりに米国で実験的に発見され、当時、音速を超
えられずに失敗作といわれていたある試作ジェット戦闘機が、この法則を適用して改
造したとたんに超音速で飛べるようになって脚光を浴びました。

船の造波抵抗でも、おそらく似たようなことがあるのでしょうが、増山先生にお任せ
します。ただ、飛行機のまわりの衝撃波は胴体や翼の周囲全体で発生しますが、船の
波は水面の上下振動ですから、深いところにあるキールがどのように影響するのか、
ましてやキールとバルブの関係まで考慮する必要があるのだろうかなどといった点に
興味を持っています。




X-Sender: Yutaka Masuyama
Date: Tue, 15 Jan 2002 20:21:46 +0900

増山です。
西村さん、
お久しぶりです。ご連絡ありがとうございました。
西村さんには、第5回の研究会('94年12月)で、ノースセールの3Dセールのお話
をして頂きました。
その後、当方の怠慢でメールアドレスが不明のまま、ご連絡できなくなっていました。
舵誌ではいつも興味ある記事(「風の旅人たち」や、最近は「ニュージーランド漂流)
を拝見しながら、ご連絡しなくてはと思っていました。ようやく今回登録させて頂き
ましたので、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
(近い内に、会員向に近況報告をお願いいたします。)

**************
さて、下記のバルブと船体の凹みに関するご質問の件、小生も気になっております。
船体ではなく、バルブの部分がストラット取り付け部で凹んでいるのは、アメリカズ
カップ95の時に、アメリカ艇(ブルース・ファーの設計艇だったと思いますが)が、
すでに採用していました。それがいよいよ、船体にまでおよんできたわけですね。

フィンキールが造波抵抗に影響を与えることは、割と知られています。特にヒールし
た場合、(フィンキールの有無で)船体が造る波形状が明らかに変化することは(元)
デルフト工科大学の Gerittsma教授が示しています。
また、岩嵜さんが、フィンキールを上下ひっくり返しにつけた場合の抵抗の違いを実
験的に求めています。この場合は、フィンキールが下ぶくれの方が抵抗が少ない(要
は、ボリュームの大きいものは水面に近くない方が良い)ことを明らかにしています。
(岩嵜さん、フォローお願いします。)
そういった意味では、桜井先生が言われる「エリアルール」的な考え方から、船体の
部分的な凹みは効果があるのかもしれませんね。
***

それでは、バルブのように深いところにあるものは、造波とは違うことを考えないと
いけませんね。
以前小生のところで、フィンキールと船体取り付け部の周りの、流れの可視化実験を
行ったことがあります。この時、船体表面の流れを表す流線を下から眺めると、常識的
にはフィンキールを避けるように、フィンキールのふくらみに沿って膨らんだ形になる
と思うでしょう?実際は違います。むしろフィンキール側へ寄せられるように、くびれた
形になります。
****((この項、後に訂正あり))****
その理由として、次のようなものが考えられると思います。(小生の推測ですが)
1.フィンキールの付け根にできる「首飾り渦」によって、船体表面に、フィンキー
ル側へ向かう流れが生ずる。「首飾り渦」は船体やバルブと、キールストラットとの接
合部などにできるねじり鉢巻のような渦です。例えばバルブ上面に添って流れてきた流
れが、ストラット正面(よどみ点)にぶつかって一回ひっくり返れば渦ができますね。
それが首飾りのように付け根に沿って後へ流れていくわけです。
もちろん、こんな余計な渦を作るのでエネルギーロスになりますし、渦のない場合に
比べて表面上の流速は大きくなりますから、摩擦抵抗も増えます。バルブの凹みはこの
首飾り渦を弱くする効果があるのかもしれませんね。

2.もっと単純に、流線がフィンキール側へ寄せられていることから、ここでは流線
の間隔が狭くなっている、すなわちフィンキール近くで流速が大きくなっていると考
えてみましょう。水からしてみれば、今まで何もなかったところにいきなりバルブが
現われて、さらにストラットがやってくる。当然、流れるべき断面積が減るわけです
から、圧縮されないのであれば、同じ量流れるためには速度が速くならないといけません。
速度が速くなると、やはり摩擦抵抗が増えます。
この流れる断面積の減少を、バルブの凹みで補って、表面の速度が速くなるのを抑え
ようということかもしれません。
***

しかしながら、凹みは流れを不安定にしますから、剥離しやすくなります。
最近のAC艇のバルブは、表面の流れ(境界層と呼んでいます)をなるべく層流に保
つように、最大厚みを後ろの方へ持ってきています。したがって凹んでいるところは
もう、層流に保つことをあきらめていると言えます。(ま、首飾り渦が直接影響する
ところは、もう層流とはいえないでしょうけれども)
このような観点からすると、どちらが良いか正にトレードオフの関係で、本当に緻密
に実験と計算をした上で形状を決めないと、かえって逆効果ということもありうるよ
うに思います。田原先生、またご興味のある方、このあたりご意見頂ければ幸いです。
では、ニュージーランドの「風の旅人たち」の皆さん、ご健闘をお祈り申し上げます。




From: "tanaka hiraku"
Date: Tue, 15 Jan 2002 20:41:49 +0900

欠席が多くて恐縮している、田中 拓です
桜井先生がご回答になった、エリヤ・ルールの件ですが、
航空機ではポピュラーで,広く利用されているようですが、
船の世界では、余り評判が高いとは言えないようです。

具体的な例としては、アメリカで、半潜水船カイマリノの改造の際、
ストラットがついている部分のアンダー・ハルの断面を変化させ
て、船体断面積とストラット断面積の和が滑らかに変化する様に
形状変化させたのが典型的な例だと思います (あの時も、
米国の担当者が、戦闘(飛行)機の絵を見せて、翼が付いている
部分の機体が細くなっている理由など話しましたが、結果としては、
期待したほどの高い評価は与えなかったようです、詳しい事は
聞いていません。)

田中も試してみました(カイマリノと同じ様な船で)、船体周りの
圧力分布を計って調べたりしましたが(古い話で余り覚えて
いませんが)、継続する気にならなかった記憶があります。
船の場合、フルード数が関係するので、速度の全域で良いとは
言えず、安直な方法で成功は望めないと思います。
思いつくままに、失礼します。




X-Sender: Yutaka Masuyama
Date: Tue, 15 Jan 2002 22:05:21 +0900

西村様、桜井先生、皆様、
増山です。
先ほどお送りした、バルブの凹みに関して、小生少しうろ覚えの実験データをもとに
推測を言ってしまいました。
少し訂正いたします。

===========================
先ほど、船体とフィンキールの取り付け部の可視化実験をやった結果、流線がくびれ
ると言いましたが、これはフィンキールの後半部分でした。
前半部は、やはりフィンキールの形状に沿って、膨らんで曲がっているようです。
( 正直言うと、あまりはっきりしません。)

あの後、気になって当時の写真を探したのですが見当たらず、報告書用にコピーした
ものしか残っていないのであまりはっきりしないのですが、そのコピーを改めてみる
限り以下のようです。(当時は別のところに興味があり、この流線のくびれについて
は気になっていましたが、それほど深く考えませんでした。)
流線がくびれるのはフィンキールの後半部分です。

フィンキールは翼断面形状をしているから、ここでくびれるのはあたりまえだろうと
思われるかもしれませんが、そのくびれ方が、フィンキールの後縁角よりもかなり大
きいのです。
前半から広がった流線が、フィンキール後縁に向かってぐっと絞り込まれ、その後、
再び広がっていきます。ちょうど、つぶれたx字形のような感じになっています。
また、この流線にくびれが見られる範囲はかなり広い(フィンキール弦長程度)と言
えます。
その様子がかなり意外だったものですから、「くびれた」ことだけを思い出し、今回
の推測に結び付けてしまったというわけです。

*****
結論から言いますと、先ほどの推測の内、

1.「首飾り渦」の発生に関係あるのだろう、ということは妥当ではないか。
上記の、後半部の流線のくびれも「首飾り渦」による影響によるものではないかと思
います。
2.流線間隔が狭くなるから流速が速くなる云々・・は、少なくとも前半部分にはな
いので、削除。
とお考えいただければ幸いです。

以上、お詫びして訂正いたします。




From: "Kazu Nishimura"
Date: Wed, 16 Jan 2002 04:08:32 +0900

増山先生、桜井先生
西村一広です。
お返事ありがとうございます。
大変参考になります。
3月発売の舵誌4月号でこのクラスのヨットの解剖記事を書く予定です。
お二人の研究者からのご意見を是非参考にさせていただきたく思います。

このレースの特殊性は、クローズホールドの走りが全体の20%から30%しかな
い(つまり、クローズホールドに必要なリフトを生み出すキールエリアが、邪
魔になる状態で走る距離が全体の7割から8割を占めることになります)、とい
うことと、強風域、しかも波が大きいリーチングからダウンウインドのセーリ
ングでできるだけ大きなセールを張り続けられるコントロール性をセーラーが
ボートに求める、という点です。

この2つによって、キールストラットとラダーの2つのフォイルのエリアバラ
ンスは、通常のレースヨットに比べると、より多くラダーに偏っているように
見えます。
キールストラットのコード長のミニマムはルールによって制限されています
が、デザイナーによってはその計測点だけストラットを後端に出っ張らせ、そ
の部分以外は全体のコードを短くするという工夫をしています。

強風域でコントロール性がいいボートとはつまり、よけいな抵抗を極力減らし
た水面下と、細かい舵角操作でコース変更(これは艇を波に乗せるときなどに
特に重要とされます)や外力(波、瞬間的な突風)への対応が可能で、しかも
舵を大きく切った場合でもストールしにくいラダーだと思いますが、航空機の
場合はいかがでしょうか?

きょうもこれから別の取材でそれらの船を見に行きますが、また気が付いたこ
とがあれば報告させていただきます。
西村一広




From: Iwasaki
Date: Wed, 16 Jan 2002 10:14:24 +0900

御無沙汰しております.岩嵜@MESです.

増山先生からのお呼び出しにより参上いたします.
小職コメントについては,下記御参照下さい.

> -----Original Message-----
> From: Yutaka MASUYAMA
> Sent: Tuesday, January 15, 2002 8:22 PM
> Subject: [syra,1022] 西村さんお久しぶりです(バルブの凹みについて)
>
> また、岩嵜さんが、フィンキールを上下ひっくり返しにつけた場合の抵抗の違いを
> 実験的に求めています。この場合は、フィンキールが下ぶくれの方が抵抗が少ない
> (要は、ボリュームの大きいものは水面に近くない方が良い)ことを明らかにしてい
> ます。
> (岩嵜さん、フォローお願いします。)
>
[IWASAKI Wrote : ]
「そう言えばそんなこともやっていたなー」と懐かしく思い出しました.
#学生時代はプロペラのない船しかやっていなかったので,入社してから,
#苦労しています(^^;).

それはさておき.
増山先生が全て書いて下さっているので,私からは何もフォローすることはあ
りません(^^;).
実験からも,計算からもキールを上下にひっくり返すと,造波抵抗が減る方向
であることは間違いないようです.
Volumeが水面から離れていくため,波が立たなくなるためである,と小職も
理解しています.

体積分布は長手方向だけでなく,深さ方向も考えに入れて船体形状を決定
すべきである,とその時認識した次第です.




From: Akira Sakurai
Date: Wed, 16 Jan 2002 11:00:12 +0900

桜井です。
今回の提供していただいた話題は、セーリングヨット研究会のメンバーにとって、
とてもフレッシュな問題提供で、ありがとうございました。一日の間にこれだけ各
方面からレスポンスがあるというのは驚きでした。
そういう意味で、下記のメールも含め、この話題についてのご意見は、ぜひsyra
メーリングリスト全体にも流させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。




From: Akira Sakurai
Date: Wed, 16 Jan 2002 14:47:28 +0900

西村様
 桜井です。

> 強風域でコントロール性がいいボートとはつまり、よけいな抵抗を極力減らし
> た水面下と、細かい舵角操作でコース変更(これは艇を波に乗せるときなどに
> 特に重要とされます)や外力(波、瞬間的な突風)への対応が可能で、しかも
> 舵を大きく切った場合でもストールしにくいラダーだと思いますが、航空機の
> 場合はいかがでしょうか?

興味深く、かつ難しいご質問です。

ヨットのキールとラダーは、飛行機でいえば主翼と水平尾翼に当たります。上記の
ような要求は、飛行機でいえば大きな迎角(ヨットのリーウェイに相当)変化を伴っ
た激しい運動をするジェット戦闘機などに相当するものでしょう。

ラダーを敏感にするためには、ラダーの迎角あたりに発生する揚力を増やすことが
必要で、そのためには舵の面積を増すことと、ラダーの縦横比を大きくして揚力勾
配を大きくすることが重要になります。また、舵が効いてスターンが動き始めたと
きに舵効きが減少しないためにはスケグがない方がいいわけですが、ジェット戦闘
機などでも、最新のヨットのスペードラダーと同様に、スケグに相当する水平安定
板がなく、尾翼全部が昇降舵になっているオールフライングテールというのが用い
られています(主な理由は超音速での衝撃波の発生による副作用を防ぐためです
が)。

一方、ラダーの縦横比を大きくすると、揚力勾配が大きくなり、ストールしやすく
なるので、戦闘機などではあまり大きな縦横比は用いられないようです。また、ラ
ダー(水平尾翼)だけでは舵効きの敏感さとストールに対する鈍感さという矛盾は解
決しにくいので、最近の戦闘機などでは、ストレークの効果を利用する例が多く見
られます。これは主翼の付け根付近の前縁を鋭い角度で前方に突き出すもので、日
本のT-4ジェット練習機、米国のF-18戦闘機などをはじめとして広く使われていま
す。これによって大迎角時に主翼付け根付近に強い縦渦が発生し、それが主翼だけ
でなく、尾翼付近まで流れて、失速を防止する効果があるといわれています。この
ような空力的な仕掛けは、もしかしたらヨットでも有効なのではなかろうかと思っ
ています。

ただし、飛行機の場合には非常に高速度で飛ぶので、激しい運動をしているように
見えても、機体近傍の流線が大きく曲がるというほどのことはありませんが、ヨッ
トの場合には遅い割に運動が激しいのでこのような非定常効果が大きいですし、波
の問題もあるので、飛行機の場合よりは物理的にもっと難しい現象が起きていて、
飛行機の例を安直に当てはめにくいという面もあります。だからこそ興味がつきな
いともいえますが。




Date: Wed, 16 Jan 2002 15:14:25 +0900
From: "Kinoshita, Takeshi"

木下@東大です。
西村さんの提起された問題の議論が深まっていき、
大変興味深く拝見しております。
多士済済のセーリングヨット研究会ならではの議論ですね。




Date: Wed, 16 Jan 2002 18:05:29 +0900
From: Yutaka MASUYAMA

田中様、西村様、皆様、

増山です。
田中様からの貴重な知見をありがとうございました。
船体周りの圧力分布を計って調べられたとのことですので、かなりはっきりした結果
が出ているのではないかと思います。
先にお送りした、小生のメールの中でも、
"本当に緻密に実験と計算をした上で形状を決めないと、かえって逆効果ということ
もありうるように思います。"
と申し上げました。

桜井先生が言われるように、超音速で飛び衝撃波の影響が出る飛行機では、確かに効
果があるようです。
しかしながら、それ以下で飛ぶ飛行機にこのような凹みをつけたものが見られないの
がその一つの証左ではないかと思います。
(もしはっきりした効果があるようであれば、燃費に利いてきますから、飛行機メー
カーはこぞって採用すると思いますが。)

この類は、以前の12m級の頃の、アメリカ杯艇のリブレットでもありましたね。リ
ブレットそのものが、それ以降、アメリカ杯で使用禁止になったのでヨットには見ら
れませんが、やはり現在にいたっても飛行機にも使用例は見られません。これも本当
に摩擦抵抗が減るのであれば、飛行機メーカーは採用していると思います。

ただ、ヨットレーサーの場合、数時間走って数秒を争う(ちょっとオーバー?)と言
ったところがありますから、これだけの性能の違いというのは、正直言って計測不可
能です。

ですから計測して効果が見られないからダメ、とは言えないところもあると思います。
(上記の飛行機の例でも、多少の効果はあるかもしれないけれど、凹みをつけたり、
リブレットを貼ったりすることのデメリットを考えると採用するほどのことはない、
ということかもしれません。)

少しでも可能性が見られたら採用する、これがレーサーを設計するヨットデザイナー
のスタンスでしょうから、ブルース・ファーはSAICあたりに数値計算をさせて、
効果ありと踏んでいるのではないでしょうか。

それから、「こんな効果のあるものをつけているんだ」というプラスのイメージをク
ルーに持たせる、これの効果も大きいと思います。




Date: Thu, 17 Jan 2002 04:45:20 +0900
From: 堀内浩太郎

増山先生
堀内です、ヤマハの林邦之君が松井さんのところでリブレットの実験をしたことがあ
ります。
シングルスカルにリブレットを貼って、スカルのレーシングスピード(約4.7m
/s)で抵抗を測った結果、2〜3%抵抗が減ったように記憶しています。




Date: Thu, 17 Jan 2002 08:40:42 +0900
From: Yutaka MASUYAMA

堀内様、

増山です。
リブレットに関する情報をありがとうございました。
シングルスカルで2〜3%抵抗が減ったのであればすごいことですが、実際にレース
で使用されたのでしょうか?
あるいは、これもまた禁止されたのでしょうか?

小生の知る限り、リブレットに関しては、研究者の間でも効果があるという人と、な
いという人に分かれていて、まだ結論が出ていないように思っています。




Date: Thu, 17 Jan 2002 12:12:53 +0900
From: Yutaka TERAO

terao wrote:

今でもリブレットは
入手可能なのでしょうか。

3Mでは今生産中止ということで、
昔、少し分けてもらい、
人力水中翼船Seagull-2の水中翼部に
91年頃、貼り付けた事があります。

効果のほどは?

工学では有効数字2桁の世界で、
3桁の計測はとても難しいと
思っていました。

特に自然界で、様々なカオスの
中での有効性検証はとても
難しいのではないでしょうか。

たとえ実験室レベルでの検証でOKでも
リブレットのように繊細な溝構造を
もつものは自然界の汚れ、生物付着に
対しての耐性がきわめて弱いと思われ
実用性能はどうなのだろうかと今でも
疑問を持っています。

レースなどの短時間使用ならば
良いのかもしれませんね。

我々も人力船の走行実験時、表面を
磨いていましたけれど、
人力のように変動の大きな出力では
効果のほどはわかりませんでした!?。




Date: Fri, 18 Jan 2002 05:25:13 +0900
From: 堀内浩太郎

増山先生
堀内です。ヨット同様禁止されました。




Date: Fri, 18 Jan 2002 06:15:44 +0900
From: 堀内浩太郎

寺尾先生  堀内です
一応聞いてみます、多分手に入らないと思いますが。




From: "tanaka hiraku"
Date: Fri, 18 Jan 2002 10:17:33 +0900

寺尾 先生のご質問に、田中 拓です
先生も既に情報はお持ちだと思いますが,念のために、
昨年 10月25日横浜国大の摩擦抵抗低減のオーガナイズドセッシヨン
の中で, 日立造船の田中 寿夫さんが、表面処理法による摩擦抵抗低減
の話しをしました。スライドだけで、論文の提出は有りませんでした。
リブレットによる摩擦抵抗低減は、1989年Nagamatsuの実験の話しが
中心で、梗概のプリントには、流線にそって置かれたリブレットで3から4%
の摩擦抵抗低減がアメリカズカップヨット等で実証済み、汚損には弱い。

論理的な話しは面白かったけど、この面での進歩は少ないと思いました。
リブレット以外の摩擦抵抗低減の話しは,興味深いものでした。 以上です。




From: "tanaka hiraku"
Date: Sat, 19 Jan 2002 12:01:47 +0900

寺尾先生、田中 拓です
ご質問有難うございました。
恐縮ですが、今のところ時間に追われてまして、よく調べることなく、
(よく思い出してみることなく)お答えする失礼をお許し下さい。

オーガナイズドセッシヨン「摩擦抵抗低減の現状と展望」は、
 第1部 造船分野――――紹介 と
 第2部 機械工学分野――紹介 にわかれています。

第1部は、
@ 児玉良明 「マイクロバブル法による―――」、船研の12mモデル
の試験結果と青雲丸実船試験の(昨年9/13−15実施)計画等の話しで、
12m モデルの場合(7m/s)で全抵抗の約10%低減できた。
マイクロバブルを旨く使えば、数10%の低減効果が期待できる,細長船型の時。
モデルの尺度影響実験から、局所せん断力の流方向分布(5m/s)
のデターを解析して、低減効果が50m船の下流端まで持続(長い程有利)
等の結論を得ている。
A 下山啓次 「空気膜法による摩擦抵抗低減」
B 田中寿夫 (前記)

第2部は、
@ 瀬川武彦 (産業技術総合研究所)
  「ピエゾセラミック型アクチュエーターアレーによる壁乱流の能動制御
   (MEMSによる乱流制御を目指して)」
寺尾さんの言われる、ナノテクとまで言えなくても、瀬川さん等が試作し
テストしている、Blowing Type Vortex Generator 
(境界層の中でも作動させられる、壁乱流の抵抗制御 (マイクロ・マシン田中追記))
、 に痛く感心しました―新しい流力を見る感じです。実験的には成功している。

A川口靖夫  (産業技術総合研究所)
  「界面活性剤水溶液の抵抗低減現象とその応用」 論文提出
前段の界面活性剤水溶液の説明(省略)
後段に、ドイツの小都市で集中したプラントによる熱湯配管による地域暖房
に応用してエコ・エネルギー都市の構成に役立てている(テスト・プラントか
実用化に成功しているのか、忘れました)、を知り感心しました。

このあと活発な討論会が有り、私は船の摩擦抵抗を水槽で減らすだけの
話しなら20年前から研究しているのだから、造船研究では駄目で、
最近の言葉を使えば、視点を海事に転換しなければいけない、と言って
嫌がられました。 しかし造船も変わらねばいけない,と思っています。
 
田中 拓(ひらく)




From: Akira Sakurai
Date: Sat, 19 Jan 2002 18:29:08 +0900
Subject:エリアルール、ストレーク、フィレット

桜井です。
キール取付部の凹みの話で、飛行機での例についてメールを書きましたが、イメージが
わきにくい点もあるかと思い、写真をいくつか集めてみました。

エリアルール


図はエリアルールが最初に劇的に適用された例です。F-102という初期の超音速ジェ
ット戦闘機で、マッハ1.2程度を出す予定だったのですが、試験飛行ではどうしても音
速を超えることができず、失敗に終わり掛けていました。その状態が左側で、胴体は
通常の流線型になっています。ちょうどこのころに、エリアルール、すなわち翼も含
めた全断面積がスムーズに変化するように設計すると造波抵抗が少なくなるというこ
とが発見されて、右側のように胴体形状を改めました。翼幅が最も大きくなるあたり
で胴体を細くし、その後ろの、翼がなくなるあたりで、わざわざ胴体に張り出しをつ
けて断面積の急減を防いでいます。この改造で見事に音速を突破でき、米空軍に正式
採用されました。

エリアルールは音速近くで飛行する機体の場合に最も威力を発揮します。この機体(英
国ブラックバーン社(当時)の「バッカニア」)は、空母から発進して、音速近くで海面
すれすれを飛行して攻撃するという特殊な任務を持ったものであったため、極端なま
でにエリアルールが適用されて、奇怪な姿になっています。胴体断面積の変化と主翼
や尾翼の断面積の変化を考えながら眺めると、たしかに全断面積はなめらかになって
いるように見えます。

ストレーク

図のように、鋭い後退角を持つ翼が大きな迎角で飛行するときには、前縁剥離渦と呼
ばれる縦渦(回転軸が流線方向の渦)が発生します。この写真は水槽中で前縁の数点か
ら染料を流して撮影されたものです。前縁剥離渦は前縁近くに大きな速度を誘起して
揚力を生み出しますが、そのほかにも、境界層をかき回して剥離を防止するという効
果もあります。

後の方の効果を主として利用するのが、ストレークとかリーディングエッジエクステン
ション(LEX)と呼ばれるもので、上図に示すFA-18戦闘機の翼付け根からコブラのえらの
ように張り出しているのが典型的な例です。この写真はNASAで実験機として用いてい
るもので、ストレーク先端から煙を出して渦がみえるようにしています。ストレーク
で発生した強い渦は、主翼前縁付近でブレークダウンして広がって、後方に流れてい
ます。このような流れが主翼や尾翼の剥離防止に役立っているわけです。

フィレット

翼が胴体の下の方についている機体(低翼機といいます)では、翼の後縁が胴体と接する
部分が、急速に谷間が深く広くなっているような形状になるので、流れが剥離して、
抵抗の原因になったり、渦が水平尾翼をたたいて振動のもとになったりします。この
ため、翼後縁の付け根部分ができるだけスムーズになるように、フィレットと呼ばれ
る整形がしばしば施されます。図は第二次大戦中の英国の戦闘機スピットファイヤ
戦闘機の平面図と飛行中の写真です。
飛行機の場合には、翼が胴体に対して少し上向きに取り付けられるので、このような配
慮が必要になることが多いのですが、ヨットのキールのように、ハルの中心に左右対
称に取り付けられている翼の場合には、あまり大きな効果はないかもしれません。




Date: Sat, 19 Jan 2002 19:13:36 +0900
From: ichiro YOKOYAMA

桜井先生、西村様、皆様
横山です。ご無沙汰しています。
バルブの凹み、キール・ラダーの付け根部分のディテールなど興味深い話が飛び
交っていますね! この年末年始とてつもなく混乱してまして、メールに参加す
る時間が不足しています。非常に興味深く読ませて頂いています。このテーマは
今までのAC開発でも話題にあげていましたが・・・・・
それはともかく、バルブの凹みに関して条件を追加するとしたら、この世界一周
レース(VOLVO OCEAN RACE)のスピードは一般的に考えられているヨットのレベル
よりも格段にスピードが速いことです。具体的にどの程度か、バルブ長さは
どの程度かを示して頂くのも話をわかりやすくできると思います。
つぎに、キール・ラダーの付け根部分ですが、私もヨットデザイナーのハシクレ
として、興味のあるところですし、実設計でこのアイディアは採用しています。
古くは、私の父親が、「ラダーがストールするので、ハルと交叉する前端に三角
形の小さなスケグをつけると効果がある・・」言っていました。私もいろいろ文
献を調べまくり、ドーサルフィンという名前にたどり着きました。飛行船やプロ
ペラ機の方向舵でかなり大きな角度で侵入してきた流れでストールを防ぐために
効果があると理解しました。特に最近のヨットは翼がドンドン小さくなり、アス
ペクト比も高くなってます。ストールしてしまうとナカナカもとに戻りません。
具体的に最新のVOLVO OCEAN RACEでのおおよそのスペックなどを紹介されるのも一考
かと思います。



以上