「MALT'S マーメイドV号」の設計

                            横山 一郎

 「古い設計ですが、 キングフィッシャークラス を作りたいのだけれど.....」という 堀江氏からの電話でこのプロジェクトは始まった。 「マーメイド号」の堀江謙一氏だとはまったく気がつかず、
 「どうしてそんな古い設計で...」と言ってしまった。 数分後、 電話の主に気づき、このプロジェクトの全容が堀江氏より語られていった。

 父・横山晃は40年前に設計した「キングフィッシャークラス」の図面を保存していた。 堀江氏がどうしても改良設計したい部分は数カ所あった。 しかし、その古い設計図を見ていて、40年の時代に変化を感じざるを得ず、リニューアル設計による「近代化」を提案した。 堀江氏からの返事は、「オリジナルの雰囲気を維持して、全長・最大幅を変えないでやりましょう。」 という条件であった。

 かくして、新生マーメイイド゙は、船型・セールプラン・アペンデージなどすべて、新設計で行うことになった。

配置図   (図面拡大)
セールプラン   (図面拡大)
建造中

 船体に使う材料は、オーク材を使用することが決まった。 船体外板はウィスキー樽のリサイクル材から作られた薄板をエポキシ接着剤で積層した合板が特別に作られた。

 基本的な設計コンセプトとして、「長距離を楽に・安全に走りきる」ことに主眼をおいた。 装備品が多く木造の艇で重くなるが、「早く目的地に着く」ためにいかにしてそのハンデを克服するかが性能設計として一つのテーマであった。 またこのような目的の艇では「真剣に操船を続けなくてもまっすぐ走り、操作をすると敏感に反応してくれる」という性格のよい艇であることが基本的かつ大切な要件となる。

 長い水線長や船型の工夫はもちろんのこと、マストやキールの位置などのバランス、深く重心の低いキールによる高い復原力など、総合的な検討が加えられた。 この艇での性能に対するチャレンジは長年培ってきた"性格のよい艇"という目に見えにくい高性能の具体化である。

 構造・安全面でもいくつもの工夫がされた。 浮力体室もその一つで、ウレタン発泡体が 充填され、不沈艇となっている。

オーク合板製作物語

 構造材としてオークが選ばれ、ウィスキー樽として働き終えたオーク材を使い合板を製作した。  広葉樹であるオーク(ミズナラ)は1500年以上の樹齢といわれており、樽として使われる60~80年はその寿命のほんの一時の間である。 柾目の良いところを選んで作られた樽材のオークを大切に使い、再生しながら使い続けるということは自然を大切にするという考え方なのである。 オークをどんどん伐採していくのではなく、切り倒してしまったオークをできるだけ長く使いつづけるように努力するのである。 サントリーでは25年ほど前からリサイクル材として家具を作る研究を始めたようである。 曲がっている樽材を真っ直ぐに伸ばし、接着剤の力を借りて大きな木材に戻していく。

 この合板プロジェクトでは、15cm×15cm×2.7m のかたまりを作った。 そのかたまりを合板メーカーに持ち込み、1mmの薄い板(ツキ板)を作り、そのツキ板を積み上げて接着して、合板にした。

 ツキ板を作るための前工程として、かたまりをやわらかくするために4週間も熱湯槽に入れることになった。 オーク材はそれでも十分にはやわらかくならず、出来上がったツキ板は少々厚さのばらつきが出てしまった。 接着剤も数種類選び、テストピースを作り、曲げテストも行った。結果として、エポキシ接着剤を使い、なんとかオーク合板を作り上げることができた。

マストの話

 マスト材として当初は、「オーク材… 」という話しもあったが、いかにも重くなりすぎるということで、アルミマストを作ることになった。 使用した材料はカンビール素材である A3004で、焼き入れ加工ができない材料であった。 そこで、少し厚めに押し出された丸パイプ材をさらに引き抜き加工で硬化させながら目標の肉厚まで絞っていくという工程をたどり素管を作り上げた。 なかなか手間のかかった素材をマストメーカーに送り込んでマストに組上げた。


 装備面でも数々のテーマが現実化されてきた。 電源システムに燃料電池を使用するプロジェクトも進行中である。 これらの数々のテーマを、堀江氏自身がアイデアをまとめ主体的にすすめていく姿勢に感服している。 時として突飛なアイデアも飛び出してくる。 フレキシブルであり、チャレンジ精神がある。 私はヨットの設計プロとして、ヨット本体にかかわる部分の設計をお手伝いさせていただき、楽しませていただいた。

 「安全に、楽しく、太平洋を渡っていただきたい。」と願っている。