第19回セーリングヨット研究会議事録(平成13年 6月 9日)

1.日 時:

5月 11日(金)13:00〜17:00 (懇親会 18:30〜21:00)
12日(土)9:00〜12:30

2.場 所:

5月 11日(金) ヤマハコミュニケーションプラザ 309C会議室(静岡県磐田市)
12日(土)ホテル白砂亭 会議室         (東海道線 弁天島駅)

3.出席者:

(敬称略、順不同)------sは学生、Nは初参加
野本、堀内、安部、田中、蒲谷、仲渡、桜井・東野(九大)、木下・小林s(東大生研)、田原(大阪府大)、林(林賢之輔設計事務所)、永海・東島・清水・久保田・木村N・藤井N・山田N・(ヤマハ発動機)、犬飼(石川島播磨)、永井(デック)、山口(海上技術安全研究所)、沢地(サワジデザイン)、梅田(阪大)、村尾(青山学院大)、寺尾(東海大)、横井(工業デザイン)、小暮N(小暮印刷箔押所)、西川(CRC総研)、柳田(サンマイクロシステムズ)、添畑N、増山・深澤(金沢工大)、 ------ 以上33名

4.議 事

(写真はクリックすると大きくなります)

(0) 会員近況報告

この皆さんの近況報告を聞くのを楽しみにしておられる方も多く、今回も時間をかけてお話し頂きました。ヤマハ発動機にて開催させて頂きましたので、OBを含めて9名のヤマハ関係者に出席頂きました。その内、木村、藤井、山田の3氏は初参加で、各自のバックグラウンドを紹介頂きました。また初参加の小暮氏は、模型ヨットからディンギまで自作するとともに色々な実験を行っていることを紹介頂きました。また写真家の添畑氏は、日本の帆船文化を掘り起こして伝えることの大切さを述べられ、沖縄のサバニの帆走を復元した経緯について紹介頂きました(後述)。山口氏からは、これまでの「船舶技術研究所」が「海上技術安全研究所」と名称変更するとともに、独立行政法人となったことの紹介がありました。大学の船舶工学科の名称が消えつつある中、我が国の船舶研究の象徴であった「船研」の名称までも…と感慨一入の方も多いようでした。

(1)「第15回チェサピークセーリングヨットシンポジウム報告」 増山 豊氏(金工大)

2001年1月下旬に、アメリカのアナポリス(ワシントンDCの近く)において開催された、第15回チェサピークセーリングヨットシンポジウムの会場の様子や、発表された論文の概要について報告した。発表論文は全部で15編であったが、アメリカズカップ2000の後であったにもかかわらず、AC関連の論文は3編と少なかった。一般的な帆走船の性能解析に関するもの4編、IMSやレーティングに関するもの3編、転覆に関するもの2編、歴史的な帆船の性能に関するもの2編などであった。また発表者は、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、イギリス、ドイツ、日本と多岐にわたり、アメリカからの論文は半分以下であった。これらの論文の内、CFDに関するものについては田原先生に、波浪中性能に関するものについては梅田先生に、各々別途詳しく解説頂いた(後述)。

会場には91歳のOlin Stephens氏も顔を見せ、全ての参加者が尊敬の念を持って接していたのが印象的であった。増山は野本名誉教授、桜井教授との共著論文である"現尺復元された日本の伝統的帆船「浪華丸」の帆走性能"について発表した。(会場の様子を示す写真と、全発表論文の概要を別掲する。)

全発表論文の概要

CSYS写真集

(2) 「多胴型小型帆船のJCI検査に関する問題点」 林 賢之輔氏(林賢之輔設計事務所)

旅客定員をもつ総トン数20トン未満のカタマランの実例。復原性規則が適用されるが、同規則は基本的にモノハル艇のための規則であるため、重量重心査定、横揺れ周期の計測には困難が伴う。  初期復原力は大きく、船体中心線間の距離に依存しており、KG値にあまり依存しない。傾斜試験時の傾斜角は小さく(0.2度程度)測定誤差を含みやすい。横揺れの減衰が非常に早く、周期も小さい(1秒程度)ので測定そのものが難しい。限界傾斜角の算出方法、および横揺れ角の算定方法は不適当である。

(3)「ツインダックス帆走実験報告」 木下 健氏(東大生研)、堀内浩太郎氏

12月と3月に材木座海岸で行った帆走試験のビデオをみせて、計算上のポーラー図の説明をした。 今後の改良点として進路安定の向上とベンチレーションの対策が挙げられ、議論した。

 

(4)「快速シーカヤック K?60の話」  堀内浩太郎氏

七里ヶ浜の金井さんのシーカヤックが進水しました。この船は長さ6m、幅24cm、従って  L/B=25という今までにないスレンダーボートです。そのため抵抗が今までのレーシングシーカヤックに較べて30%も少なく、スピードは10%速いのです。ローイングスカルのように、腰の位置を高くして船体に入れないで、その分船を細くして両舷にサイドフロートを付けました。サイドフロートには水中翼を取り付けて抵抗を最小限となるよう工夫する積もりです。7月1日には奄美大島で36kmのレースがあり、そこで好成績を上げるのを楽しみにしています。
この船は、2kgの推力で5.6ノット、5kgの推力を加えれば9ノットのスピードが出ます。そこに着目して小さなセールを付けたいと思っています。主船体のフォームスタビリティーは無いに等しいので、ヒールモーメントの生じないウィングセールを使います。それも邪魔にならぬよう、丁度こうもり傘を開くように簡単に3uのセールを広げたりすぼめたりできる構造を考えながら、高速クルージングを気軽に楽しめる新しい世界を夢見ています。(このシーカヤックの写真を別掲します)

(4)「第15回CSYSにおけるCFDに関する論文の解説」 田原裕介氏(大阪府大)

第15回Chesapeake Sailing Yacht Symposiumの論文"International America's Cup Class Yacht Design Using Viscous Flow CFD" by P. Jones and R. Korpusの論文を要約・解説した.同CFDは,有限解析法・PISO型速度場―圧力場結合・オーバーレイ型複合格子法を用いたものである.同論文では,第30回アメリカ杯の参加艇の設計において,RANS法(レイノルズ平均ナビエ・ストークス方程式法)が始めて具体的に応用されたことが強調点となっている.例としてAmerica Oneチームの風上航のセールデザインに用いVPPの空力予測をしたことや,キールデザインにも用いられた事例などが示され,"ヴァーチャル・プロトタイプ"の役割を果たしたことが報告されている.

(5)「第15回CSYSにおける波浪中性能に関する論文の解説」 梅田直哉氏(大阪大学)

オーストラリア・カーテン工科大のハリスらが、第15回チェサピーク・セーリングヨット・シンポジウムに発表した論文"波浪中のヨットの風下航性能を予測する時間領域シミュレーション" を紹介した。この論文は、ヨットが波浪中をランニングからクオーターで走るときの速力を時間領域シミュレーションで求めることにより、トランサムが広く浅い船型が追波中で速くなることを力学的に示した。まず、ヨットに働く、平水中抵抗、前後方向の波の力、セールによる推力を理論式または実験回帰式でモデル化し、拘束模型実験などでその検証を行っている。次に、10隻のシリーズ船型についてパラメータースタディを行い、風速20ノットにおいてはトランサムが広く浅い船型がもっとも速くなること、風速がより小さくなるとその傾向は必ずしも保たれないことなど明らかにしている。

紹介者はこの発表について、1)広いトランサムが有利なのは波の力の差ではなくむしろ(波の位相速度付近での)平水中抵抗特性の差であること、2)不規則波中の速力の計算には時間平均だけでは不十分であること、3)最終的には方向安定性への言及が必要ではないかとの意見を述べた。

(6) 「セールボートの方向安定性の実験」  桜井 晃氏(九大)

セールボートは特に水面下において飛行機とよく似ているが、通常はセールがハルに固定されている上に、ヒールすることにより空気力が大きなヨーイングモーメントを発生するので、セール力やそのモーメントとハルの流体力の相互作用は複雑なものとなる。しかし、セールやマストの構造を工夫して、ハルの向きに関わらず、風速だけに依存する空気力だけがハルに伝わるように単純化できれば、ハルのヨーイングに関する力学は、飛行機のピッチングに関する力学と等価になる。このような近似のもとに、空気力の着力点位置とハルの空力中心の位置関係を適切に選べば、セールボートに針路安定を与えることができることを実験によって検証した。

(7)「身障者ヨットの実艇実験」 永井 潤氏(デック)

前回のセーリングヨット研究会で発表した身障者ヨットに関する続編で、昨夏に行ったセール風洞実験に続き、本年2月に行った実艇試験について簡単に発表した。計測システムはRaytheonのSTシリーズを用い、SeatalkバスにNMEAブリッジを繋げ、GarminのGPSデータを混ぜたものをノートPCでロギングするものがメインで、他に振り子式のヒール計測システムを別系統で設けている。

実艇試験の解析としては、以下のような試みが比較的目新しいものと思える。
1)GPSの対地速度を利用したスピードメータのキャリブレーション。
2)いろいろなモードでセーリングしたVMG値を用い、包絡線を引いてそれぞれの風速における最大VMG値、および帆走状態を推定。

最大VMGが得られる帆走状態をIMSーVPP、そしてセールの風洞実験を評価するために作成した自作VPPの結果と比較した。VPP値ではいずれもよく一致していたが、風が弱い状況では、アップウインド、ダウンウインド(スピン)とも、実艇の方がスピードを出すモードで走っていることがわかった。実艇のセール形状も記録しているので、さらなるセールの風洞実験や、あるいは数値計算等を行うことにより、このようなVPP結果との違いの理由や、より実際に即したVPPの作成が可能になると思われる。

(8)「セールを対象とした膜構造物の空力弾性挙動に関する研究

    ―マスト変形を考慮した場合について―」  柳田徹郎氏(サンマイクロシステムズ)

セールとマストを対象とした構造物の空力弾性挙動解析手法を紹介した。セールはその形状を活かして推進力を生む揚力体であると伴に、生じる揚力の分布に依存した弾性変形を行う。これらの流体現象と弾性特性は互いに依存する関係にあるうえ、セールが曲げ弾性を殆ど持たないことから、両特性の平衡状態を解析的に求めることは困難である。そこで、本研究では構造計算と流体力計算の反復計算により、流体中のセールとマストの形状及び、近傍の流場についてのシミュレートを行った。

(9)「ハンディGPSを利用した航跡分析システム」 山田 潤氏(ヤマハ発動機) 

ハンディGPSを利用した航跡分析システムを紹介した。ほとんどのハンディGPSに備わっているメモリー機能を活用し、航跡を記憶し、記録した航跡を、練習やレース後に各艇のデータをPCへ取りこみ、報告者が開発したGarSailorという航跡分析ソフトで表示、分析を行うシステムである。自分が走ったコースが分かりさらに他艇と比較することにより、長所、短所がよくわかり、セーリング技術を向上させることができる。また、アニメーション表示することにより、選手以外の人もレースや練習を把握することができるようになり、ヨットの楽しみを増やすツールとしても活用できる。ハンディGPSを使用しているため、ディンギーのような小型艇にも搭載でき、また、ソフトはWindowsの操作程度の知識があれば扱える。

(10)「ふかけサバニの復元帆走」  添畑 薫氏

沖縄のサバニは戦前まで帆で走っており、「ふかけサバニ」と呼ばれていた。これが戦後、沖縄に駐留した米軍が放出したエンジンを使って機走するようになり、帆走はすたれてしまった。しかし古いサバニにはエンジンを取り外せばまだ帆装用の穴が残っていたりするし、なによりも帆走のことをまだ覚えている人がいる。今ここでサバニの帆走の文化と技術を掘り起しておかなければ、この伝統が永久に失われてしまうという思いに駆られて、沖縄の皆さんに呼びかけて復元帆走実現のキャンペーンを行った。

多くの人達から支援を受け、艤装から帆布の染料にいたるまでの様々な知識とノウハウを持ち寄ってもらい、昨年第1回目の帆走大会が実現した。ジャンク型の帆に風を受けて軽々と走るサバニを見て、本当に嬉しそうにしているお年寄りの顔が印象的であった。今年は第2回大会を行う予定であり、多くの方々に見て頂き、沖縄の海洋文化に思いを馳せていただきたいと思っている。

 


 

4.見学会

1日目の会場である、ヤマハ本社敷地内にあるコミニュケーションプラザは、通常は一般公開されていないが、ヤマハ発動機の歴史を物語る製品が多数展示されている。自動車、オートバイ、モーターボート、エンジン、人力飛行機など、その世界の人にとって垂涎の的となるような歴史的な作品が所狭しと並べられており、堀内さんらの説明のもとに大変興味深く見学させて頂いた。

 

5.懇親会 

1日目の研究会終了後、宿泊先の弁天島「ホテル白砂亭」へ移動し、懇親会を行いました。添付の全員写真は懇親会開始前の様子です。(懇親会の前にお帰りなった方、ごめんなさい。)「ホテル白砂亭」までは1時間ほどの道程でしたが、ヤマハ関係者の皆様の自家用車に分乗させて頂いて移動いたしました。懇親会はいつものように大いに盛り上がり、さらに夜中到着の西川さん、柳田さんを待ちながら2次会にも多数参加頂きました。

この勢いでは2日目の朝は皆さん揃うかなと思っていましたが、きっかり9時には全員集合で、お昼過ぎまでさらに密度の高いご講演をお聞かせ頂きました。

ヤマハ発動機の永海さんはじめ関係各位の皆様には、会場準備から両日の運営、懇親会のお世話にいたるまで、大変お世話になりました。ありがとうございました。厚く御礼申し上げます。

 

6. 次回予定

懇親会場にて打合わせた結果、次回の大まかな予定は下記の通りとなりました。 
・日 時:平成13年10月から11月にかけての土曜日
・場 所:東京または横浜地区

 

(文責;増山)