平成13年 1月 12日

第18回セーリングヨット研究会議事録

1.日 時: 2000年12月9日(土) 11:00〜17:00  (懇親会 17:30〜19:30)

2.場 所: 東京大学生産技術研究所C棟6階セミナールームII(Ce602号室&Ce604号室)(駒場)

3.出席者:(敬称略、順不同)------sは学生、Nは初参加

増山座長・深澤(金沢工大)、丸尾、堀内、田中、木下・小林s(東大生研)、田原・石井s(大阪府大)、林(林賢之輔設計事務所)、永海・東島(ヤマハ発動機)、松井・安部(三井造船昭島研究所)、伊東・犬飼(石川島播磨)、永井(デック)、大橋(ヴァンデスュタット大橋)、高石(日大)、山口(船研)、沢地(サワジデザイン)、戸嶋(テクノマリーン)、芳村(北大)、村尾(青山学院大)、寺尾(東海大)、横井(工業デザイン)、 辻(エディコム)、今北N(日本海事協会) ------ 以上28名

4.議 事

(0) 会員近況報告

 第17回の研究会から半年ぶりの開催のためか、皆さんかなりボリュームのある近況報告を頂きました。なかでも、永海さんの「たしかに新艇はあまり動いていないけれども、中古艇の動きは活発である。従ってマリンの需要は減っていない。」というご意見に勇気づけられました。

(1) 「ツインダックスの現状について」 犬飼泰彦氏、堀内浩太郎氏

 当初発表予定だった加納裕真氏(東大、木下研)は、明日からの海上実験準備のため欠席で、前任者である犬飼氏にまず1/3模型の実験概要をお話頂きました。次いで堀内氏よりフルスケールモデル実験のお話しがありました。

1)ツインダックス1/3模型帆走試験のVTR(犬飼)  浜名湖で今年春に行ったツインダックス1/3模型の帆走試験の様子をVTRで流しました。模型に3チャンネルのサーボモータ(セール用、ラダー用、バランサ用[離水前のヒール対策として乗員に見立てた約3kgのおもりを左右に動かせるようにしました])を取り付け、模型の横を動力付きボートで伴走しながらラジコン操作で試験を行いました。平均4〜5m/sの理想的な風の中、ちょっと荒れ気味の海面も何のその、安定して翼走する姿が確認されました。VTRでみると、左右の船体が自由にねじれて安定を保ち、離水してからはほとんどヒールもせずに走行することがよく分かります。

2)数値計算から見たツインダックスの釣り合い(犬飼)  ツインダックスをモデル化し,9次元連立方程式を立てて釣り合い方程式を解きました。風上側の主翼にマイナスの揚力が作用するように船体がねじれるため,強風下でも静的な釣り合い可能なことが計算からわかります。計算上,15m/s以上の暴風の中でも走行可能です。一方,船体のねじれを許さないモデルを考えると,風速が7m/sを超えると,ハイトセンサが水面から飛び出して翼走不能になることがわかります。ここから,広い風速で翼走するためには,船体がねじれる構造であることが必要不可欠と言えます。

3)フルスケールモデルの帆走試験の報告(堀内)  先月に行われたフルスケールモデル(全長4.5m)の帆走試験の様子を写真を交えて報告しました。水中翼配置を含めた基本要目はほぼ模型から 得られた知見を取り入れた形となっています。しかし,実用性を考慮し,いたるところに工夫が施された設計になっています。主翼(および主ストラット)は砂浜に持っていくまでの運搬を考え,折りたためるように,さらに折りたたんだときにタイヤが地面についてそのまま引きずってもって行けるようになっています。 また,水中翼の迎角を簡単にボルトを使って調節できるような仕組みになっています。

 試験の方は,曳航試験までは順調だったものの,帆走試験では思わぬ誤算がありました。模型ではコックピット部がハードデッキであるのに対して,今回はトランポリンを使っています。そのため,乗員がトランポリンでなくハルの直上に乗ってしまうと,乗員の体重が後ろビームにかからなくなってしまい(乗員の体重が風下側のハルには後ろビームを通して伝わらない),その結果,風上側のハルは前が極端に持ち上がり,風下側のハルは反対に前が水面に突っ込んでしまうという事態になりました。そこで,次回試験にはコックピットをハードデッキに変更して臨む予定です。

 今週(12/11〜)から始まりますので乞ご期待を。

(2) 「アメリカ(特にメイン州)の舟艇造船所、造船学校見聞報告」 増山 豊氏(金工大)

増山氏は8月から11月上旬の約3ヶ月間、アメリカのメイン州にある南メイン大学へ短期留学していた。その間、本務の傍ら週末には精力的に同地方の舟艇造船所や造船学校などを訪問見学してきた(どっちが本務かの声あり)。その間の見聞記を報告頂いた。

まず、ロードアイランド州におけるニューポートボートショウの様子と、ヘルショフミュジアムの紹介があった。特に戦前の巨大なアメリカ杯艇(Jクラスなど)の設計で有名なヘルショフが、設計にあたってまずハーフモデルを自ら削り出し、納得のいく形状が得られたらこのモデルからラインズをおこすという手順を踏んだことの紹介があり、その無数のハーフモデルや作業現場、工具類が保存されているミュジアムの様子が示された。またここでは古い木造艇のレストアも行われており、その様子も見ることができる。

次にメイン州のハジトン造船所で建造されている全長153フィートのコールドモールド艇(ケッチ)の紹介があった。全幅36フィート、工費83億円、工期4年という気の遠くなるようなフネ。このサイズのコールドモールド艇を建造できるのは世界でこの造船所しかないとのことで、最近(アメリカの)木造艇専門誌によく紹介されている「アントネージュ」(約130フィート、イタリア人所有)も、ここで建造された。また、この次の建造予定も入っており、その後も順番待の状態とのこと。アメリカの層の厚さを見せつけられた思い。

メイン州のランディングスクールはアメリカ有数の木造艇の設計建造を教える学校。増山研究室OBの中川潔君が2年間学び、この6月に卒業した。なお、同君はTAとして9、10月、同学に滞在し、増山氏を造船所などに案内してくれた。同学は、小型艇建造コース、大型艇建造コース各12名、設計コース、マリンシステムコース各20名の定員で、各1年で履修する。小型艇コースは3人、または4人で1グループとなって、12フィートのディンギと、ヘイブンという14フィートのクラッシックなデイセーラーを作る。大型艇コースは6人1グループとなって26フィートのコールドモールド艇を作る。原図からエンジン据えつけ、マスト艤装までの全てを行う。設計コースはヨットならびにモーターボートの設計手法を学び、卒業設計としてオリジナルの設計を行い、これを持って造船所などに就職の売り込みに行く。マリンシステムコースは昨年から新設されたもので、ヨット、モーターボートの電装、艤装、エンジン据えつけ、船内レストアなど、ハル建造以外の全てを学ぶ。特に業界からの強い要望から新設された学科で、このコースと建造コースの両方を勉強した学生は業界から引っ張りだことのこと。このような勉強をした若者が(しかも他にいくつもこのような学校がある)、毎年就職していくアメリカのマリン業界の底力、恐るべし。

なお、増山氏のノートパソコンが瀕死の状態だったためセーフモードで見て頂くことになり、大変見づらい写真だったことをお詫び申し上げます。

(3) 「船型主要目および馬力の変遷について」 山口眞裕氏(船研)

 山口氏がホームワークとしてコツコツと進められている標記データの解析結果について、丁寧なご説明を頂きました。

 1950年以降、国内で建造された油槽船について推進性能関係のデータを収集して性能の変遷を検討した。

  1970年代までの油槽船の大型によって、排水量と速度を乗した積に対する馬力の比は小さくなっており、相対的に性能が良くなっていることを示している。これは、大型化によるレイノルズ数を高め、それによる摩擦抵抗係数をさげることによって得られた結果である。1973年の石油危機以降、船の大きさにヴァラエティが増えている。大きさをほぼ一定とした場合の油槽船の性能は、さらに良くなっていることが判った。  なお、これらの解析より、ΔCfのあり方に関心を持った。今後さらに性能の検討を進めて、まとめたいと考えている。(配布資料あり)

(4) 「第30回アメリカ杯・セミファイナルにおける海況・戦績解析について」 石井智憲氏(大阪 府大、田原研)

 ニッポンチャレンジのテクニカルチームの1員として、現地で海況・戦績解析した結果を紹介頂いた。今後も大学院でヨット研究に取り組むとのことで、今後を大いに期待したいと思います。報告概要は以下のとおりです。

 石井君は田原研究室の4年生.第30回アメリカ杯レースにおける海況およびレース戦績の解析というテーマで卒論を書いている."かわいい子には旅をさせよ"という,田原先生の指導方針により今回のセーリングヨット研究会で発表することとなった.研究は発展途上ではあるが,研究の目的・風と船速の関係・風と波の関係などを一生懸命説明した.考察方法に関して,会場からのたくさんの貴重な意見があり,石井君にとって得たものは大く,良い経験になったと思う.これからもたくさんのアドバイスをしてあげてほしい.メールアドレスは ishii@aqua.marine.osakafu-u.ac.jpとのこと.

(5) 「セール、リグ効率化のための風洞実験について」 永井 潤氏(デック)

 身障者用のセーリングプロジェクトに関るセール形状の風洞実験結果を紹介頂いた。報告概要は以下のとおりです。

 マツダの横浜研究所の風洞において、全長8mのスループの1/16モデルを用いて実験を行った。身障者用ヨットとして、小さいセールエリアで性能を確保することがその目的である。

 1)セールプランのバリエーションについては、メインセールのE寸法の長短、フォアトライアングルのIポイントの高低について実験を行った。当然のことながらアスペクト比の高いセールが効率がよいことが確認されたが、その具体的な特性の変化を把握することができた。結論として、クローズホールドにおいてはオリジナルのセールプランに対し、メインセールのE寸法を短く、またフォアトライアングルのIポイントを高くしたセールプランが、セールエリアの減少にもかかわらず優れた特性を発揮することがわかった。

 2)より効率的なリグの候補として、ローテーションマストの実験を行い、ローテーションの角度の違いによる特性の変化を把握することができた。角度ゼロでは抗力が増すが、角度を適当につけることによってクローズホールドからリーチングまで効果があることがわかった。

 3)スピンネーカーとダウンウインドに強い新コンセプトのジェネカー(面積の大小2つ)について実験を行い、特性の違いを把握することができた。ダウンウインドにおいて劣るとされるジェネカーであるが、新コンセプトのジェネカーでは、同面積でも約5%の推力の減であり、またアスペクト比の高い小さなジェネカーも面積で無次元化すると決して劣らないことがわかった。

 4)これらのセール特性の評価は、簡易的なVPPを作成することによって行い、IMS-VPPの出力結果と一部比較を行った。クローズホールドにおいては風速とセーリング状態の関係に少し違いが見受けられ、IMS-VPPでは風速に応じてセール力を調整していることが推測された。ダウンウインドにおいては、今回実験したジェネカーと、IMS-VPPの予測しているジェネカーの特性はかなり差があることがわかった。

 5)まとめとして、身障者ヨットとしてセールエリアをぎりぎりまで減じ、しかもそれなりの性能を確保することはまだまだ可能と思われる。しかし、それはクローズホールドに限った話であり、クローズホールドをよくするとリーチングで劣りがちな点、そしてダウンウインドについては、省力化志向のジェネカーとはいえ、現実問題として身障者に操作が可能であるかどうかという点、またこれらを実艇のセーリングでで確認すること、等が課題として残されている。

5. 懇親会 

研究会終了後、下北沢の「鳥良」に会場を移し、忘年会を兼ねた懇親会を盛大に行いました。

東大生研の木下先生ならびに小林様には、会場準備から当日の運営、懇親会のお世話にいたるまで、大変お世話になりました。ありがとうございました。また同研究室の岩本様にもお手伝い頂きました。厚く御礼申し上げます。

6. 次回予定

懇親会場にて打合わせた結果、次回の大まかな予定は下記の通りとなりました。

(文責;松井、増山)

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